ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談①

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見た『ドッグセラピー体験談①』は、怒りっぽい認知症女性Aさんのおはなしです。

Aさんとセラピー犬のドッグセラピーが、どのように始まったのか。

Aさんには、どんな変化があったのか・・・。

mamioが、実際に現場で見て、経験をしてきたことを綴ります。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

まみお
まみお

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談① 怒りっぽい認知症の女性のはなし

体験談①は、病院に入院している認知症患者で、他の患者さんや職員に対して怒りっぽく、職員に対して暴言をはいてしまう女性の話です。

看護師が熱を測るだけでも嫌がられ、場所を変えてリハビリに行くのは至難の業。

そんなAさんのところへセラピー犬が訪れると・・・!?

認知症とドッグセラピーについては、コチラの記事も参考にしてみてください。

女性患者Aさんについて

Aさんは80歳代の女性で、認知症を認知症、高血圧症など複数の病気を患っていました。

認知症にも複数の種類があり、Aさんの認知症の場合、物忘れの症状の他、性格の変化や、怒りっぽくなる症状が主にみられる傾向がありました。

Aさんは、転倒の危険があるので入院生活では車いすを使用していましたが、自力で立つことはできます。

Aさんには犬の飼育歴があり、犬に慣れており、元々犬が好きでした。

入院中の様子

人から干渉されると他の患者さんや職員に対して暴言がきかれますが、激しい抵抗や暴力はありません。

食事の時以外は、基本的には自分の部屋で、テレビを見て静かに過ごしていました。

自宅に帰るためにリハビリが必要であることを理解していて、リハビリに意欲はありました。

ですが、気分のムラがあり、「今日はやらない」と言い出すと、リハビリスタッフの話に耳を貸さなくなることも頻繁にありました。

セラピー犬との交流

入院から数日経ち、いよいよ犬との関わりが出てきました。

はじまり

Aさんは元々犬が好きなことから、セラピー犬の訪問を快く迎え入れてくれました。

既に他のセラピー犬は訪問経験がありましたが、面識のないmamioとそのパートナー犬にも最初から友好的で、積極的に関わろうとしてくれました。

犬と触れ合っている間のAさんはとても穏やかで、普段のような怒りの感情は、ほとんどみられませんでした。

Aさんは、自分と犬との顔を近づけるのが好きで、何度も自身の顔を犬に近づけながら笑顔で過ごしていました。

先に訪問していたセラピー犬は、人の顔が近づくことを好まない犬でしたが、mamioの犬は人の顔が近くに来ることを喜んでいました。

そこで、Aさんと犬の相性から、mamioの犬がAさんを担当することにしました。

まみお
まみお

生き物同士の交流なので、相性が良いことは大事な要素のひとつです。

訓練を受けた犬なら、どんな人が相手でも、それならには活動できるでしょう。

でも、より良い選択肢があるなら、それを使うべきです。

人間同士でも、「ここの病院の先生は感じがいいな」とか思うことはありませんか?

それと同じことです。

幸いなことに、mamioには複数のセラピー犬仲間がいるので、相性を考慮することができました。

Aさんの変化

Aさんとmamioのパートナー犬は、何度か会い、自由に交流を重ねていきました。

何度も一緒に過ごすうちに、mamio自身もAさんに認めてもらい、打ち解けることができましたし、セラピー犬は、すっかりAさんのお気に入りになりました。

Aさんは犬を膝の上にのせて、掌全体で撫でたり、至近距離で見つめることが好きでした。

最初の数回は犬の名前を伝えていたのですが、どうしても犬の名前を間違って記憶してしまいます。

それでも、毎回同じ名前で呼んでいたので、犬の認識はできていました。

違う名前で呼ばれても、犬が反応できていたので、そのままにしておきました。

2か月ほど経過した頃、自室ではなく、多くの患者がいるホールでAさんとセラピー犬が交流していました。

普段なら、あまり他の患者さんと談笑することのないAさんでしたが、この日は違いました。

犬が気になって近づいてきた患者さんに、笑顔で自分の膝の上にいる犬のことを紹介していました。

そして、その患者さんが犬を撫でる様子を、にこにこと見守っていました。

少し前までは、独占欲の方が強くて、あからさまに嫌な顔をしたり、相手を馬鹿にするような発言をしていました。

Aさんが変わったのは、薬物療法の効果も大きいですが、この数か月で犬との信頼を築けたことも大きいです。

他の人が来ても、犬はAさんの膝の上から離れることはないという安心感がAさんにはあったのでしょう。

そして、犬を介して他の患者さんを容認できるようになってきたのです。

まみお
まみお

認知症の治療は、薬と日常の関わりの両方から取り組むことで、良い効果が得られます。

精神的に落ち着いてきたAさん。

日常的に行う体温測定などに対しても、怒ってしまうことが、かなり減ってきました。

リハビリテーション

退院に向けて、実践的なリハビリを行うようになってきました。

それまでは、平らな床を歩く練習をしていたのですが、階段の上り下りの練習が始まりました。

普通の歩行に比べて、体への負荷が大きく、よりリハビリが辛く感じるようになってしまったAさんでしたが、退院のために頑張っていました。

でも、意欲はあるのに、うまく身体が動かずに焦ってしまい、空回りしてリハビリがスムーズにできなくなっていました。

そこで、リハビリ意欲が低下しないようにしつつ、適度に焦りをなくす目的で、セラピー犬がリハビリに同行することになりました。

リハビリ専門スタッフと相談しながら、リハビリ中のセラピー犬の配置場所を決めました。

Aさんに危険がないように気が散らないように、でも、辛くなった時にすぐ近くにいることが分かる場所で、セラピー犬が応援しています。

セラピー犬が精神的な支えになり、焦りすぎないようにコントロールする役目を担います。

リハビリの途中で休憩を挟むのも、とても大事なことです。

血圧など全身の健康状態を確認しながら、次のステップへ進みます。

そんな休憩中も、セラピー犬が寄り添うことで、しっかり呼吸が落ち着くまで休憩をとることができました。

セラピー犬と触れ合いながら休憩をすることで、リハビリの意欲も保てています。

階段でのリハビリが終わり、病棟に戻ると、次のリハビリもセラピー犬と一緒にやりたいと希望をされました。

辛いリハビリを精神面から支えることで、無理なくスムーズに行うことができました。

まみお
まみお

これは、ドッグセラピストだけでは絶対にできません。

リハビリスタッフとの連携があるから、できることです。

チーム医療の力があってこそ、実現できることです。

退院

認知症の症状である物忘れは改善しませんが、怒りっぽい症状が改善されたので、退院することになったAさん。

入院してきたときとは、まるで別人のように穏やかになっていました。

退院できることをとても喜んでいました。

セラピー犬は、病院入り口に駆けつけて、最後のお見送りです。

何度もセラピー犬のことを撫でて、別れを惜しむAさん。

「今度は遊びにきてください」と、最後は、笑顔でお別れです。

退院したら、セラピー犬のような犬を飼いたいのだと、目を輝かせていました。

高齢者の多い病院だと、寂しいお別れも多くなってしまいます。

なので、Aさんのように幸せなお別れは、より一層嬉しい出来事です。

その方の幸せな未来を作るお手伝いができて、私たちセラピストとセラピー犬は幸せです。

さいごに

ドッグセラピー体験談①として、認知症女性へのドッグセラピーを紹介しました。

まだまだ、うまく表現できない部分も多いのですが、少しでもドッグセラピー現場の様子が伝えられたら嬉しいです。

ドッグセラピーは、医療を助ける補助療法です。

医師や看護師などの医療者と連携して行う行為です。

でも、現在の日本では、治療としては認められず、ボランティア行為という位置づけにあります。

ドッグセラピーの効果を医学的に証明できないことにも原因があります。

ドッグセラピストmamioの力だけでは医学的証明はできません。

でも、たくさん現場をみてきたmamioだからこそ、伝えられることはあると信じています。

そして、いつかは、この動物介在療法という活動が実を結ぶことを願っています。

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