ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑪

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談⑪は、部屋に引きこもっているKさんへのドッグセラピーのお話です。

認知症にはいくつかの種類があり、それぞれに現れる特徴的な症状が異なっています。

この記事では、暴力行為の目立つ失語症の認知症患者へのドッグセラピーにより、穏やかにリハビリや日常生活を行えるようになった症例を紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

また、ドッグセラピーが多くの方に知られるようになり、「ドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」という声を頻繁に目にします。

ドッグセラピーが認めてもらえていることは、とても嬉しいことです。

もっとドッグセラピーが、普通に世の中で行われるようになると、どんなに素敵だろうかと感じています。

ですが、調べてみてもドッグセラピーで何が行われているのかは、よく分からないことが多いです。

もっと詳しいことが分からなければ、何が良いのか分からないものです。

もしかしたら、私と同じように「もっと詳しく知りたい」と感じている人もいるのでは?と思い、自分の目で見てきたドッグセラピー体験を書いてみようと思いました。

この記事は、体験談⑪となります。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場のできごとを知って、興味をもってもらえたら嬉しく思います。

体験談⑪ 暴力行為の目立つ失語症患者へのドッグセラピーのお話

体験談⑪は、暴力行為の目立つ失語症患者Kさんへのドッグセラピーのお話です。

失語症があるために、うまく周囲とコミュニケーションがとれずにイライラして、暴力行為がめだつようになっていたKさん。

周囲の入院患者だけでなく職員に対しても拒否が強く、リハビリも十分に行えない状況でした。

そんなKさんに対して、ドッグセラピーによるアプローチを検討しました。

Kさんのこと

Kさんは80歳代で、アルツハイマー型認知症の症状である失語症のため、他の人とのコミュニケーションがうまくとれない状況が続いていました。

比較的、短期記憶は保たれていて、周囲の状況理解もしっかりされていらっしゃいましたが、失語のために思うように意思が伝わらず苛立つ様子が見られていました。

ただでさえ入院生活はストレスが溜まりやすいものだというのに、追い打ちをかけるように意思の疎通がうまくいかない状況で感情が抑えきれなくなり、他者を叩く行為に繋がってしまいました。

Kさんは、近くに誰かがいると苛立つので、一人の時間を好むようになりました。

誰とも交流せず、静かに窓の外を眺めているうちに、慶民傾向が強くなり、意欲が低下し、感情を表に出さなくなってきてしまいました。

どうにかしようと職員が関わろうとしても、拒否して受け入れようとしませんでした。

Kさんとセラピー犬

Kさんへのリハビリが思うように行えずに頭を悩ませていた言語聴覚士がいました。

毎日、献身的に関わる言語聴覚士のことは邪見に追い払わず、Kさんのパーソナルスペースに入ることを許し始めていました。

ですが、失語症のリハビリのために発声を促したいのですが、相変わらず意欲は低く、思うようなリハビリができていませんでした。

悩んでいた言語聴覚士ですが、ある日、Kさんが病棟にいるセラピー犬に興味を示している様子に気がつきました。

病院の犬であることを説明してから、セラピー犬を近くに連れていきました。

すると、Kさんはセラピー犬を凝視して、柔和な表情を浮かべたのです。

感情が平板化していて、表情の変化が全くなかったKさんの表情に変化が現れたのです。

そのタイミングで、犬に触れても問題ないことを軽く説明すると、なんとKさんは自らセラピー犬に手を伸ばしました。

明らかに、人間と接する時には見ることのなかった自発的な行動が、セラピー犬との交流で現れたのです。

Kさんへのドッグセラピー

セラピー犬をきっかけに、自発的な行動がみられるようになったKさん。

最初の目標である意欲向上が、良い方向に向かっていました。

精神面の安定

意欲が向上したKさんですが、他者を拒否する姿勢は依然として続いており、暴力行為につながりやすい状態のままでした。

そこで、まずは精神面の安定に向けて、セラピー犬との交流を増やすことにしました。

交流を増やしますが、1番優先すべきはKさんの気持ちです。

Kさんが望むタイミングに、できる限り合わせて交流をするように心がけました。

その上で、生活のリズムを整えられるように、気候の良いタイミングではセラピー犬と散歩や日光浴をして日中の覚醒を促したり、ボール投げやオヤツあげなどをして自由に交流をしました。

セラピー犬と過ごす時間が心地よいものに感じてもらえているようでした。

Kさんは、一度もセラピー犬に手をあげたことはありませんでした。

それどころか、とても優しく温かいまなざしを、いつもセラピー犬にむけてくれていました。

その証拠に、セラピー犬をみかけると、積極的に近づいてきてくれるようになっていました。

日中の覚醒があがり、生活リズムが整ったことで、食事や入力なども行いやすくなりました。

また、セラピー犬と交流中に、言語聴覚士をはじめ、看護師などの多くの職員が積極的に声掛けをしてくれていたこともあり、他の職員との関係性も向上していました。

信頼関係が構築されたことで、Kさんの暴力行為は大幅に減少していきました。

すっかり穏やかになったKさんの様子に、面会に訪れたご家族様が非常に喜ばれていたのが印象的でした。

Kさんのリハビリ

意欲が向上し穏やかになったKさんは、リハビリにも取り組むことができるようになりました。

Kさんの発声のため、言語聴覚士が様々なプログラムを用意して日々取り組んでいました。

これまで、Kさんが何度かセラピー犬の名前を呼ぼとしたことがありました。

唇の動きはあるものの、うまく発声に繋げることができない状態が続いていました。

ところが、ある日、ついにKさんは、セラピー犬に名前を呼びかけることができたのでした。

すぐさまのポジティブフィードバックと、セラピー犬からのアイコンタクトに、Kさんの笑顔は一層明るく輝いていました。

セラピー犬と会えない時間

長い入院生活を送る患者さんに対して、ドッグセラピーを提供できるのは、ほんのわずかな時間しかありません。

セラピー犬への負担も考慮すると日中の時間帯のみに限定される上に、衛生面の問題から食事提供時間にもドッグセラピーは行えませんでした。

食事時間に実施するドッグセラピーについては、その施設ごとに基準が異なるため、一概に行えないというわけではありませんが、mamioが活動する施設では食事時間帯のドッグセラピーは中止していました。

そういう中で、セラピー犬と対象者を繋いでくれるのは病棟の職員の力が大きいです。

ふとした会話の中で、Kさんとセラピー犬のことに触れ、セラピー犬がいない場においても想起させてくれます。

病棟にはセラピー犬の写真も数多く飾られていました。

また、ドッグセラピー中に写真撮影をしており、その写真をKさんにプレゼントしていました。

セラピー犬とKさんが一緒に写った写真を眺めることも、また、ひとつのセラピーの時間に繋がっていたのかもしれません。

さいごに

体験談⑪は、暴力行為の目立つ失語症患者Kさんへのドッグセラピーのお話を紹介しました。

この症例では、言語聴覚士や看護師などの病棟職員と協力して、Kさんの精神面の安定に向けてドッグセラピーを行いました。

その結果、精神的に安定したKさんは暴力行為が消失しました。

そして、意欲が向上して日常生活をスムーズに行えるようになり、リハビリにも積極的に取り組めるようになりました。

言語聴覚士、看護師などの病院スタッフとの協力があるからこそ成り立っているドッグセラピーです。

チームの力がKさんに届き、これからのKさんの人生にプラスに働いたことを嬉しく思います。

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