ドッグセラピーには治療として行われる『動物介在療法』があります。
動物介在療法は、精神的な不安を和らげることで、治療に専念できるようにしたり、暴力などの行動をおさえるなどの取り組みがあります。
また、リハビリテーションの分野でもドッグセラピーは活躍をしています。
この記事では、認知症患者へのリハビリテーションの現場で、ドッグセラピーはどのように活かされているのかを、現場での症例と合わせて紹介していきます。
ドッグセラピーの活かし方が分かれば、普段のドッグセラピーの幅が広がるので、是非、参考にしてくださいね。
リハビリテーションとは
WHO(世界保健機構)が定義しているものによると
リハビリテーションとは能力低下の場合に機能的能力が可能な限り最高の水準に達するように個人を訓練あるいは再訓練するため、医学的・社会的・職業的手段を併せ、かつ調整して用いること
WHO(世界保健機構)
とされています。
全てのヒトが、その人らしい日常生活をおくるために必要な訓練や支援を、リハビリテーションの専門職が行っています。
認知症患者へのリハビリテーションでは、認知症症状に対するリハビリテーションの他、身体的なリハビリテーション、食に関するリハビリテーション、集団リハビリテーションなどが行われています。
ドッグセラピストmamioは、リハビリ専門スタッフと協力して、動物介在療法をリハビリ現場に活かしています。
認知症患者へのリハビリテーションにおけるドッグセラピーの症例
全国の動物介在療法をしている病院や施設の中には、リハビリテーションとドッグセラピーを組み合わせて行っているところもあります。
ここでは、ドッグセラピストmamioが認知症患者へのリハビリテーションにセラピー犬と共に立ち合い、動物介在療法を行った症例を具体例としてあげ、その効果を紹介したいと思います。
症例①怒りやすい日症患者へのリハビリテーション
日常的に怒りやすく、治療はリハビリテーションへの拒否が強いAさんは、理学療法士(リハビリスタッフ)からリハビリの声をかけられても、「やらないよ」と拒否することが多く、リハビリができることの方が少ない状態でした。
ですが、Aさんは昔から犬が大好きとのことで、セラピー犬に対しても、とても有効的でした。
セラピー犬がいる間は常に笑顔で、頬ずりをするほど可愛がっていました。
そこで、リハビリテーションを行うときにセラピー犬が同行すると、普段は怒ってリハビリを断ってばかりいたAさんが、快く取り組むことができました。
歩行訓練では、セラピー犬が待っている場所まで歩いていくことを目標に頑張り、目標を達成できたら、セラピー犬との楽しい時間を過ごしながら休憩をとるようにしました。
Aさんは、薬物療法の効果も合わせ、徐々に怒りっぽい性格が落ち着いてきましたが、薬の調整ができる前の早期段階から、セラピー犬の存在によりリハビリテーションを行うことができました。
痛みを伴うリハビリテーションですが、Aさんの好きなセラピー犬が立ち会うことで、リハビリテーションを、ただの苦しい時間ではなく楽しい時間に変えることができました。
ここで紹介した症例について細かい内容は、コチラで紹介していますので、参考にしてください。
症例②意欲が低下している患者へのリハビリテーション
認知症のせいで、何事においても意欲が低下しているBさんは、リハビリテーションを行っていても、自分から何かをしようという意欲がなく、リハビリスタッフの指示通り動いているだけの状態でした。
Bさんは、元から犬が好きであると同時に、カメラを趣味としている背景がありました。
そこで、リハビリの内容を「セラピー犬の撮影」と設定して、セラピー犬が被写体となって写真撮影を行いました。
犬という動く被写体に対して、しっかり撮影しようとカメラを構えながら、調整しようとする様子がみられました。
セラピー犬の動きは、ある程度セラピストがコントロールしていますよ。
また別の機会には屋外に出て、セラピー犬の写真撮影を行っていただきました。
屋外に出ることで、季節を感じることができ、気分転換にもなりました。
さらに、花と犬を1枚の写真に収めたいという思いから、時間をかけて撮影に熱中する様子がみられました。
写真撮影後は「展示会」という名目で、多くの人の目に触れる場所に展示してフィードバックを行いました。
すると、今度は、Bさんの方から「また写真撮らせてほしい」と声をかけてくださりました。
あらかじめ調査したBさんの好みにあったリハビリテーション内容に設定することで、意欲を引き出すことができました。
認知症患者が撮影したくなる程度に、セラピー犬の動きを調整することも大切です。
この症例の紹介は、コチラのページで詳細にしていますので、参考にしてください。
症例③集団リハビリテーション
認知症患者への集団リハビリテーションでは、手足の体操や音楽活動などが主に行われています。
また、風船を使ったバレーボールのような運動も取り入れられることが多いです。
数十人の対象者に提供するリハビリテーションなので、上記のようなプログラムに良い反応が得られる患者もいれば、良い反応が得られない患者もいます。
普段のプログラム内容に良い反応が得られず、居眠りをしてしまうCさんは、ドッグセラピープログラムでは、ずっと起きることができ、さらに笑顔が多くみられました。
また、普段から様々なプログラムに良い反応があるDさんは、ドッグセラピーにおいても良い反応があり、「普段と違う内容で楽しかった、また来てね」と発言が聞かれました。
さらに、ドッグセラピーのプログラムがある日をとても楽しみにしていて、毎日カレンダー
と睨めっこしながら待ちわびていたとのことでした。
ドッグセラピーが日々の生活のお楽しみになっていて、それに向けて他の治療を頑張れていました。
集団の大きさにより、個別の関りとは違い、ひとりずつにゆっくり関わることは難しいですが、より多くの方にドッグセラピーを提供することができます。
また、個別に関わっているときとは違う一面を見ることができるので、治療計画を立てるうえでは貴重な機会ともなります。
集団リハビリテーションの中でドッグセラピーを取り入れることで、普段とは違う「イベント」のようなプログラムを提供することができます。
長期間入院している認知症患者にとっては、数少ない楽しみとなり、精神安定の効果に繋がっています。
集団リハビリについての紹介は、コチラのページで詳細にしていますので、参考にしてください。
認知症患者へのリハビリテーションにおけるドッグセラピーの効果
リハビリテーションにおける認知症患者へのドッグセラピーの症例でも紹介したように、ドッグセラピーによる効果は様々あげられます。
・リハビリの円滑な誘導
・リハビリ意欲の向上
・暴言、暴力の軽減
・自発性の向上
・リハビリによる苦痛軽減
・休憩時間の精神安定効果
・次回リハビリへの意欲
これらのドッグセラピー効果が、認知症患者へのリハビリテーションをスムーズに行う手助けとなります。
リハビリ専門スタッフだけでスムーズにリハビリテーションが行えない場合に、ドッグセラピーが有効となる場合があります。
リハビリテーションにおけるドッグセラピーを行うために大切なこと
ドッグセラピーをリハビリテーションに活かすために必要なことは、『対象となる相手をよく知ること』です。
これは、認知症に限らず、全ての対象者に当てはまることです。
そして、リハビリテーションに限らず、普段のドッグセラピーにおいても当てはまります。
認知症の方へのリハビリテーションにドッグセラピーを導入するには、事前に確認しておきたいことがあります。
・取り組みたいリハビリテーション内容
・ドッグセラピーの組み込み方
・現在みられる問題行動
・元々の性格
・趣味、嗜好、生活歴
・犬の飼育歴、好き嫌い、アレルギー
まずは対象となる相手のことを知ってから、アプローチ方法を検討していくことで、効果的なドッグセラピーを提供することができます。
リハビリテーションにおけるドッグセラピーの課題
全ての認知症の方に対して、ドッグセラピーが有効であるとは限りません。
つまり、リハビリテーションにドッグセラピーを導入することは、全てのリハビリテーションに良い効果をもたらすとは限りません。
犬にアレルギーのある方にはドッグセラピーを提供するべきではありませんし、犬が嫌いな方や、犬に噛まれたことがあるなどの経験があり、犬を苦手に感じている方には犬の存在がマイナスに働くこともあります。
リハビリテーションにドッグセラピーを組み込むときには、どのように行うかを事前にリハビリ専門スタッフと相談しておくことが大切です。
身体のどこに麻痺があるのか、身体のどの部分のリハビリを行いたいのか、セラピー犬をどこに配置すると効果が高くなるのか、などを検討しておくと良いでしょう。
まとめ
認知症患者へのリハビリテーションにドッグセラピーを取り入れることで、リハビリのスムーズな誘導と実施、苦痛を和らげる精神的な効果、リハビリの意欲の向上などの効果が得られます。
よい良い効果を得るためには、事前にリハビリ専門スタッフと相談し、どのようにドッグセラピーをリハビリテーションに取り入れるのかを決めておくことが大切です。