ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談③

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談③は、発達障害で施設で生活していて、周りにいる誰にも興味を示すことのない多動の症状のあるCさんのおはなし』です。

犬どころか他の人にも全く興味を示すことのなかったCさんとセラピー犬との交流。

Cさんには、どんな変化がみられたのか?

mamioが、実際に現場で見て、経験をしてきたことを綴ります。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談③ 誰にも興味をもたない多動のCさんの話

体験談③は、施設に入所している多動症(ADHD)の男性Cさんの話です。

mamioは勤務先である病院以外でも、ドッグセラピーの活動をしています。

そのうちの1つが、発達障害の方が生活をしている施設です。

月に1回訪問してドッグセラピー活動を行っていました。

病院よりも先に活動を始めた施設で、そこでドッグセラピーの経験を積んだことが、現在の活動に繋がっています。

多動のCさんについて

Cさんは20歳代の男性で、重度の発達障害がありました。

運動機能は保たれており、ひとりで歩行はできるCさんですが、生活に必要な動作には介助が必要で、食事、入浴、排泄などは生活支援員が常に付き添っています。

すぐ近くに走り回っている人がいても、叫んでいる人がいても、その存在を気にすることはありません。

基本的には立っていることが多く、自分の前歯に何か固い物を叩きつけて過ごしていました。

また、言葉でのコミュニケーションは難しい状態のCさんでした。

Cさんとの出会い

Cさんは周りの人の存在に、全く興味を示していないように見えました。

そのようなCさんなので、もちろん犬に対しても無反応で、犬を認識しているのかも分かりませんでした。

ドッグセラピーをする上で欠かせないことのひとつは、「変化に気づくこと」です。

ドッグセラピーで見られる変化は、非常に小さいことが多いものです。

「指が5mm動いた」、「視線が動いた」、「犬に触れる指の面積が増えた」など、本当に些細な変化が多いです。

ですが、Cさんはセラピー犬にもセラピストにも感心を示さないので、その僅かな変化を感じることがとても難しかったです。

自分以外の人や物に感心を示さないCさんに対して、まずは「認識してもらうこと」からアプローチを始めました。

そのために、とにかくCさんの視界に入り込むように過ごすことから活動を始めました。

その動きをするためにmamioはセラピー犬を抱っこしながら移動することが多かったです。

こういう活動をする時は、抱っこができるくらいの小型犬の方が向いています。

でも、「これがドッグセラピー?」と疑問をもたれることも多いです。

活動している場面を見た人の多くは、ドッグセラピーとは思わないでしょう。

対象者の近くを、犬を抱いたセラピストがうろついているだけに見える光景ですからね。

それでも、このドッグセラピーには見えないような活動が、長い目でみると非常に大事な行動なのです。

目標に向けて、一歩ずつ階段を上っていくための、土台作りの段階なのですから。

まみお
まみお

実際、犬を抱っこしながらCさんに認識してもらうだけの活動を、mamioは半年以上続けました。
焦りは禁物です!

Cさんの変化

月に1度のアプローチではありますが、数か月という時間をかけて、Cさんに変化がみられてきました。

Cさんとセラピー犬をつなぐ

誰の行動も気にしないCさんでしたが、mamioの行動を気にするような変化が現れました。

mamioのことだけでなく、他の人間の存在も気にするようになってきました。

さらに、mamioが犬のリードを手渡すと、Cさんは受け取るようになりました。

手渡されたリードを弄ぶようにいじったり、自分に軽く打ち付けるなどの動作が多くみられました。

ですが、リードを持つということに慣れてきた頃、地面を歩く犬に繋がっているリードを持ち、一緒に散歩しているような動作が見られ始めました。

この時点では、リードの先に犬がいることに気づいているのかは分かりませんでした。

最初は、すぐにリードを手放してしまうことも多かったのですが、数か月かけて変化が現れます。

リードを持ちながら歩くことに慣れてきたCさんは、長時間リードを持ち続けられるようになりました。

ある日、歩いているCさんの行動に反して、犬が歩みを止めました。

普段なら、Cさんはリードを手放して終わりになるところですが、この日は違いました。

引っ張られたリードに合わせて、Cさんも静止しました。

そして、リードの先にいる犬に視線を向けたのでした。

この時、既に、Cさんへのアプローチを始めて1年以上の時間が過ぎていました。

ゆっくりでも、確実にCさんには変化が現れていることを実感できた瞬間でした。

セラピー犬の存在

Cさんへのアプローチを始めて数年が経過し、アプローチ前と比べると著しい変化がみられました。

多動のため、常に動きを止めることのなかったCさんに、動かずに過ごせる時間が増えたのです。

これは、集団生活をする上では、とても大切なことです。

動きが減ったことで他人とのトラブルが減少し、周囲の状況に敏感になることができたのです。

これまで、セラピストとセラピー犬のペアがCさんの近くにいることが、当たり前の状況となるように、環境設定をしてきました。

常にCさんの視界に入るように行動をしてきたセラピストとセラピー犬です。

Cさんの動きが止まったタイミングでも、同じように近くに寄り添い続けました。

その行動も1年以上の間、続けているうちに、Cさんの行動に変化がみられました。

隣に座るセラピストの顔を覗き込んできたり、肩にもたれかかってきたりする様子がみられました。

セラピー犬に手を伸ばすことはありませんが、その存在は認識していて、凝視することも頻繁にみられます。

セラピー犬は、一種の象徴のような存在になっていました。

Cさんが自分のテリトリーに受け入れて良いと判断するための象徴です。

ドッグセラピーのゴール

当初は、周囲の様子を気にすることなく自分の世界だけで生活をしていたCさんでしたが、他人からの刺激に反応するようになりました。

そして、動きを止め、ゆっくり椅子に座る時間が増えました。

集団生活をするにあたって、大きな障害となっていた2つの壁をクリアできました。

もちろん、他にも日常的に小さな問題はあらわれます。

ですが、Cさんとの交流を始めてから約8年ほどの時が流れ、ひとつのゴール地点にたどり着きました。

この8年という時間が長いのか短いのかは、捉え方次第だと思います。

ですが、まだ若く、未来が待っているCさんにとって、この8年間で得られた変化は、とても大きかったのではないでしょうか。

まみお
まみお

発達障害の障害者へのドッグセラピーは、長い時間をかけて効果が表れることが多くあります。

そのためにも、じっくり時間をかけて取り組める体制を整えられることも大切な要素です。

せっかく効果があらわれ始めたのに、急にドッグセラピーが終了してしまっては、逆効果になってしまうので、覚悟をもって始めます。

さいごに

ドッグセラピー体験談③として、多動症(ADHD)の男性Cさんへのドッグセラピーを紹介しました。

8年という歳月をかけて、大きな変化が見られたCさんとの交流です。

協調性が増したことで、集団生活で感じていたストレスが少しでも減り、心穏やかな日々を過ごせるようになってほしいと願います。

ドッグセラピーを通じて、対象者の未来に貢献ができるのは、私たちセラピストにとって、唯一無二の幸せです。

確実に彼らの成長を支えられる存在でいるためには、対象者を知ることが大切です。

そして、焦らずに、ひとつひとつ適切なアプローチをしていくための知識と経験を身に着けられるように、日々成長していきたいです。

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