ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑦

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談⑦は、長い入院生活のストレスを緩和したドッグセラピーのおはなしです。

認知症のための長い入院生活に大きなストレスを感じているGさんが楽しみにしていたのはセラピー犬と共に過ごす時間でした。

他の方とは少し違った楽しみ方をされるGさんに対して、好みに合わせたドッグセラピーの提供を行った部分があるので、そちらを紹介していきます。

はじめに

どうしてmamioがドッグセラピー談を記載することにしたのかを、最初に説明したいと思います。

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと細かい部分を知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思いました。

そして、mamioの文章を読んで活動の参考にしてもらえたり、ドッグセラピーについて興味を持ってもたえたら嬉しいと思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談⑦ 長い入院生活のストレスを緩和したドッグセラピーの話

体験談⑦は、長い入院生活の中で大きなストレスを抱えるGさんに対し、Gさんの好みに合わせたドッグセラピーを提供したおはなしです。
元来、頑固な性格と家族からの事前情報のあったGさんでしたが、ハッキリと発言するところがあるために、周囲の患者さんと口論になることも少なくありませんでした。

Gさんにとってもストレスの多い入院生活だったので、セラピー犬との心地よい時間が精神安定の時間となるように活動しました。

Gさんのこと

Gさんは80歳代の男性で、軽度の認知症がありました。

日常は車いすで活動をしており、全身のむくみのために痛みを抱えながら生活をしていました。

ご家族に対しては高圧的な態度をとることもあったようでしたが、基本的なコミュニケーション能力は保たれていて、病院職員に対して冷静な態度をとられていることもありました。

ですが、元来の性格の影響なのか、他の患者さんと口論になることは多くみられていましたし、一度期限を損ねると、普段はスムーズに行える処置などにも拒否をする様子がみられていました。

周囲には重度の認知症患者も多く、会話をすることが難しいだけでなく、他者の大声などの問題行動に対して、Gさんにはかなり大きなストレスがかかっていました。

元々、主張の強い性格もあったようで、ちょっとしたことでも怒りを爆発させてしまうこともありました。

なるべくイライラしないようにするため、周囲の人から離れるように、静かな場所で1人、目を閉じて静かに過ごしていることが多くみられました。

Gさんの楽しみ

他の人との距離を保っていたGさんは、長い入院生活の中で、どんな瞬間に快の感情をいただいていたのでしょうか。

家族の面会はもちろんのことですが、その時間を除くと、Gさんが楽しみにしていたのはリハビリの時間でした。

リハビリには2種類あり、リハビリスタッフtとの1対1でおこなう個別リハビリと、20~30名ほどの患者さんが集まり、身体を動かしたり、歌を歌ったり、頭の体操のためにクイズをしたり、昭和時代を想起しながら過ごす集団リハビリです。

集団リハビリは、周囲に患者もいるし、その内容によっては関心が低いこともありましたが、個別リハビリは他の患者がいない場所で行える上に、Gさんらしさを大事にした取り組みもあったので、より楽しみにしていました。

認知症患者のための病棟は閉鎖病棟になっており、自由に外の空気を吸うこともできません。

そのような環境なので、リハビリのために病棟の外へ行かれる時間は非常に貴重な時間となっていたのでした。

Gさんとセラピー犬

Gさんはセラピー犬に対して、非常に好意的でした。

犬の飼育経験があり、犬の扱いにも慣れていましたし、そもそも生き物が好きとのことでした。

セラピー犬を見かけると、必ず自分から声をかけてきて、満面の笑みを見せていました。

むくみのある手で痛みがあり、普段はあまり動かさないようにしているのに、セラピー犬の気をひくために自発的に動かしている姿には、胸に熱いものを感じました。

見ていて気持ちが良い犬

一般的にセラピー犬は、比較的おとなしくて従順な犬のイメージをもたれている方が多いと思います。

mamioのパートナー犬も、元々のんびりな性格で、一芸披露に迫力が欠けるようなタイプの犬でした。

小型のセラピー犬によるドッグセラピーでは、膝上に犬を招いたり、抱っこを希望される対象者が多い傾向があります。

最近のように家の中で愛玩犬を可愛がるような飼育方法ではなく、自宅の庭で番犬として飼育されていらっしゃいました。

犬はお好きでしたが、抱きしめたり膝の上に招いたりするのはあまり好まれていませんでした。

また皮膚が弱く、犬との接触による皮膚の剥離などにも十分に配慮する必要がありました。

まみお
まみお

このような全身状態の把握は、ドッグセラピーを行う上で必ず事前に知っておかなければいけない情報のひとつです

そんなGさんが、複数いるセラピー犬の中で最も可愛がったのが、セラピー犬デビュー間もない、研修中の子犬でした。

子犬といっても生後10か月以上経過していたのですが、他のベテラン犬に比べればとても若いセラピー犬でした。

もちろん子犬ならではの見た目の可愛さは多くの患者さまに好評でしたが、Gさんが気に入ったのは犬らしい動作でした。

Gさんからすれば「実に犬らしいじゃないか。他の犬はおとなしすぎて可哀そうに見える。でも、コイツは違う!元気で楽しそうで、見ていて気持ちが良い」とのことでした。

Gさんの発言にもあった、「セラピー犬がかわいそう」という言葉は、それまでにも何度も投げかけられたことのある言葉でした。

病院や施設などで活動をしている犬は、少なからずストレスを感じることもあるでしょう。

そのことについて「かわいそう」という目で対象者から見られることがある、という事実は、ドッグセラピストとしては重く受け止めたい事実です。

Gさんの目にも、他のベテランセラピー犬たちはストレスを感じているように映ったのでしょう。

ですが、研修中のセラピー犬の活き活きした様子は、「かわいそう」という感情を持たずにセラピー犬と向き合ってもらえたのでした。

ドッグセラピーと犬のストレスについての記事はコチラから確認できますので、参考にしてください。

Gさんとの過ごし方

Gさんは気に入った研修犬のことを親しみを込めて「チビ」と呼んでいました。

他のセラピー犬を見かけると「チビはどうした?元気か?」と、度々、チビを気にかける発言が増えていきました。

それ以降、チビを病棟に連れていくときには、なるべくGさんのところへ寄るようにしていました。

病棟のホールでGさんにボールを投げてもらい、自由に追いかけたりボールを噛んで遊ぶ姿を楽しんだり、庭に出て、チビを散歩させたりして過ごしました。

時には、チビのトレーニングの様子を見学してもらうこともありました。

Gさんは、ご褒美のオヤツ欲しさに、楽しそうにトレーニングをするチビを応援してくださいました。

チビが失敗して変な動きをした時には、豪快に笑ってくださっていました。

そして、いつも最後はご褒美のオヤツをチビにあげながら「お前はお利口だ」と褒めてくださいました。

Gさんの心を満たす

Gさんは、チビとの時間を過ごすようになっても、あまり他の患者さんと積極的にかかわる様子はありませんでした。

ですが、チビと一緒にいるときだけは、「可愛いだろう?」と、まるで自分の飼い犬を自慢するように周囲に声をかける様子だけはみられるようになりました。

もちろん、口論にならないようにセラピストが必要に応じて間に入ることもありましたが、Gさんは満面の笑みで非常に楽しまれていました。

病棟の隅でひとりで寡黙に過ごすGさんとは、まるで別人のようでした。

Gさんは元々会社の重役をしていたこともある方でした。

常に他人から尊敬される存在だったGさんでしたが、認知症を患い、入院生活を余儀なくされて、かつての生活は一変したことでしょう。

チビがGさんに1番近い存在となって、Gさんの欲求を少しでも満たせたのかもしれません。

さいごに

ドッグセラピー体験談⑦として、長い入院生活のために膨大なストレスを抱えるGさんの精神的な負担を軽くするために、Gさんの好みに合わせたドッグセラピーを行った事例について紹介しました。

軽度と重度の認知症患者さんが一緒に過ごす病棟では、軽度の方に大きなストレスがかかることもあります。

そのストレスを少しでも軽くするために、Gさんの心に寄り添い、Gさんの希望に沿った活動を提供しました。

それにより、一人で寡黙に過ごすばかりのGさんの日常に、笑顔の時間を取り戻すことができました。

認知症のケアは、その人らしさを尊重し、共感し、その方の抱える苦しみや悲しみを理解した上で、その方に合わせたケアが大切です。

「パーソン・センタード・ケア」と呼ばれる考え方ですが、このような認知症の方に寄り添う姿勢を保ちながら、ドッグセラピーを活用していくことで相乗効果が生まれるのではないでしょうか。

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