動物介在療法(ドッグセラピー)は、薬を用いない非薬物療法として、効果があると言われ、小児科など全国の病院で取り入れられています。
現在、日本国内の医療機関で実施している動物介在療法は、すべて無料のサービスになっています。
その理由は、動物介在療法の診療報酬が決められていないからです。
この記事では、診療報酬とは何か?ということと、動物介在療法の診療報酬化できていない理由について紹介します。
診療報酬とは
診療報酬とは、医療機関が行った診察や治療などの医療行為に対して支払われる費用のことです。
医療機関を受診した際にかかる費用は、厚生労働省が点数化して決定していて、1点の単価を10円として計算します。
日本では全ての人が健康保険に加入する決まりになっていて、医療費の1~3割を患者本人が負担し、残りの額は保険者から医療機関に支払われる仕組みになっています。
たとえば、初診料は288点と決められていて、1点が10円なので、初診料は288点×10円=2,880円になります。
2,880円のうち3割負担の方だと864円を医療機関で支払い、残りの2016円は保険組合から支払われます。
これが、健康保険証を使用した、保険診療のお金の流れになっています。
診療報酬の点数はどうやって決める?
保険診療でかかる費用は、厚生労働省が点数によって決めていることを説明しましたが、この点数は、どのように決められているのでしょうか?
一度つけられた点数は、ずっと変わらないのではなく、2年に一度、見直しをされています。
この見直しは「診療報酬改定」と呼ばれていて、次の改定は2024年6月となります。
これまでは4月に改訂をしていましたが、2024年は6月に変更されました。
改定内容が決まるのが2月なので、4月に改訂するのでは医療機関やシステム改修業者が短期間で準備をしなくてはならないため負担が大きいという声があがっていました。
その対策として改定時期を2か月後ろ倒しになりました。
診療報酬は国の予算を編成する際に改定率を決定し、それを基にして議論されます。
議論は中央社会保険医療協議会の中で、学者、医師、健康保険組合の代表者によって行われ、それぞれの医療行為の点数が決められます。
中央社会保険医療協議会(通称、中医協)は、厚生労働省の諮問機関で、必要な調査や審議を行い参考となる意見を述べる機関です。
診療報酬の改定に関する概要は経緯などは、厚生労働省のHPに掲載されていて、誰でも閲覧することができます。
ドッグセラピーと診療報酬
ここまでで、「診療報酬に組み込まれていないと保険診療ができない」ということと、「診療報酬は国が決めている」ということを説明しました。
ここで注目したいことは、この診療報酬の中に、ドッグセラピー(動物介在療法)に関する項目はない、ということです。
同じように、音楽を使った音楽療法も、植物を用いた園芸療法なども診療報酬の対象となっていないので、算定することはできません。
これらの非薬物療法は、作業療法士などを中心に数多く取り入れられており、その効果も学会などで散見します。
ですが、これらの療法を行ったことに対して、保険診療として費用を請求することができません。
それにかかる費用を施設で負担するか、自費として請求することになります。
もしくは、作業療法などが自身の活動の一環として取り入れたものとして請求することは可能ですが、あくまでも作業療法士が行ったリハビリの一部という扱いになります。
ドッグセラピーにかかる費用
診療報酬の対象にならないということは、ドッグセラピーにかかる費用は全て施設で負担しなくてはいけません。
実際に、ドッグセラピーをするためには、どのような費用が必要なのかを挙げていきます。
・セラピー犬を育てるための費用(生体の費用・食費など)
・セラピー犬の衛生状態を保つための費用(狂犬病ワクチン・混合ワクチン・トリミング・清拭)
・セラピー犬の健康状態を保つための費用(フィラリア予防・外部寄生虫予防)
・セラピー犬の健康状態を証明するための費用(検便(虫卵・病原性大腸菌・キャンピロバクターなどの人畜共通感染症))
・セラピー犬管理にかかる人件費
・セラピー犬待機エリア設置にかかる費用
通常の犬の飼育に必要な項目も複数ありますが、少なくても上記の費用は発生します。
実際にドッグセラピーを行うとなると、必要な物品を揃えるための費用なども発生するので、ここに記載した以上の経費が必要になります。
参考までに、セラピー犬の衛生管理に関する記事はコチラから読むことができます。
診療報酬化について
現在、ドッグセラピーを診療報酬の対象とするため、複数の団体が努力を重ねていますが、いまだドッグセラピーの診療報酬化は実現できていません。
しかし、その効果について十分に証明することができれば、新規に診療報酬の対象とすることは不可能ではありません。
例えば、小児病棟において、「小児入院医療管理料」として、2002年に新たな加算が認められました。
施設基準の規定の概略として、
1)15歳未満の小児の療養生活の指導を担当する保育士が1名以上常勤していること。
2)十分な構造設備を有していること。
3)重症患者の受け入れについて、相当の実績があること。
このような規定が設けられていますが、その必要性が認められれば、新たな算定をすることは可能です。
以前、mamioは上述した保育士の加算の導入に貢献した医師に話を聞き、ドッグセラピーの加算についても可能性はあるのではないかと助言をもらったことがあります。
ただ、実現するためには、とにかくドッグセラピーの効果を数値化して証明する必要があります。
国が医療に対して予算をつけるためには、その効果が十分に証明されなければいけません。
その上で、法を整備して前進させるという、政治的な要素も含まれてきます。
まとめ
この記事では、医療機関に支払われる医療費の仕組みである「診療報酬」について解説しました。
ドッグセラピーが普及しない理由のひとつに、診療報酬の対象にドッグセラピーが入っていないことが挙げられます。
ドッグセラピーの効果を証明し、保険診療の扱いにすることができれば、医療機関でのドッグセラピーが増えていくことが予想されます。
医師の働き方改革も進んでいる昨今、救命率の向上、予後の改善、良質な医療の提供に関わる実績を出すことができれば、ドッグセラピーの点数化の可能性はゼロではないかもしれません。