ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑯

犬のこと

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談⑯は、頻回なトイレ要求のため、常に苦しそうな様子のPさんへのドッグセラピーのお話です。

この記事では、トイレに行った直後でも「トイレに行きたい」と希望される認知症の患者さんに対するアプローチを紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には少し物足りなく感じていて、具体的に何をしているのかが分からないと思っていました。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと始めた体験談が、第16回まで増えました。

対象者さんの数だけ、ドッグセラピーの数も存在しています。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

対象者について

Pさんは80歳代で、アルツハイマー型認知症を患っており、数年もの間、入院をされている患者さんです。

元々の性格から、ハッキリと発言をされる傾向はありましたが、冷静な方であり、周囲とトラブルになることは、ほとんどありません。

集団で活動をする際は、1番後方の位置を好まれており、静かに鑑賞されている姿が多くみられました。

数年の入院期間の間に筋力が衰え、車いすでの生活が主となりました。

Pさんの頻回なトイレの要求

入院当初は、あまりトイレの要求は聞かれていませんでしたが、数年後から頻繁にトイレに行きたがる様子が見られるようになりました。

車いすでの生活のため、ご自身で安全にトイレに行くことが難しくなっており、その都度、病棟職員がトイレに案内をしていました。

それでもトイレの要求はなくならず、むしろ増加する一方でした。

身体的な問題がないのか検査で確認をしましたが、特に異常は見つかりませんでした。

身体が冷えないようにひざ掛けを使用するなど、生活の中で工夫をしても改善されませんでした。

トイレから帰ってきて5分以内には、苦しそうな表情を浮かべながら「トイレに行きたい」と訴えられることが多くありました。

一方で、食事や入浴などの最中にはトイレに行きたがる様子はありませんでした。

Pさんは自由時間には頻繁なトイレ要求が聞かれており、辛そうな表情を浮かべながら苦しい思いばかりして過ごしていました。

少しでもPさんの生活を心地よく改善するためにドッグセラピーを検討しました。

認知症患者とトイレ要求

「トイレに行きたい」と頻回に訴えられる利用者さんは、どこの施設でもいらっしゃると思います。

その都度、トイレに案内することができれば良いのですが、訴えが増加して、トイレを済ませて座席に戻る途中に「トイレに行きたい」と発言されることが増えると、対応しきれないことも出てきてしまうかもしれません。

「他の利用者さんもトイレに案内しないといけない」、「ご飯に向けて準備をしたい」など、時間で動いているスタッフさんにとっては、同じ利用者さんのトイレだけに時間をとることができない、という実情があるようです。

本当にトイレに行きたいのであれば案内をするべきですし、回数が多いようであれば泌尿器科の受診もすると良いでしょう。

Pさんとセラピー犬

以前、猫を飼育していたことがあるというPさんは、動物全般がお好きとのことで、セラピー犬に対しても自ら手を伸ばしている様子がみられました。

セラピー犬と関わっている間は、柔和な表情を浮かべ、優しい声で犬に話しかけ、様々な質問をセラピストに投げかけていました。

Pさんとの個別の関り

午前中の検温などが終わりお昼時間までの時間帯は、リハビリや検査がない日は比較的時間が空いています。

何かするべきことがあればトイレの要求がきかれないPさんですが、待機時間にはトイレ要求が頻繁にきまれます。

そこで、その時間帯に合わせて介入するように訪問しました。

セラピー犬を見ると、すぐに「ワンちゃん」と手を伸ばし、笑顔で受け入れます。

Pさんは、膝の上にセラピー犬を抱っこして撫でながら会話することを好んでいました。

短期記憶が乏しいため犬の名前は覚えられませんが、名前を気にすることなく「ワンちゃん」と呼んで可愛がっています。

天気が良ければベランダで鉢植えに水やりをしたり、中庭まで足を延ばして一回り散歩をして過ごしました。

様々なことに興味を示すPさんは、いつもの病棟とは違う環境が良い刺激になっているようで、個別に関わっている間はトイレの要求がほとんど聞かれませんでした。

セラピー犬の効果

Pさんがベランダでの園芸活動や中庭散歩などの活動に関心を示していたため、セラピー犬のいない状態でも実施しました。

病棟で待機しているだけに比べると、Pさんのトイレ要求は改善されていました。

しかし、Pさんの性格上、複数の患者さんと一緒に活動をする際、他の患者さんを優先して自分は後ろからついて行くことを好みます。

そうすると、結局は待ち時間が発生し、散歩中であってもトイレ要求に繋がってしまっていました。

1人の職員がPさんだけを連れて活動できるのであれば良いのでしょうが、日々のこととなると難しいですし、Pさんだけを連れて活動するのであれば、時間を短くせざるを得ない状況でした。

他の患者さんを優先させたがるPさんでしたが、セラピー犬に対しては違いました。

他の患者さんに譲るのではなく、自分の膝の上に招きたがるのです。

それだけ他の活動よりもドッグセラピーへの関心が強く、Pさんに対してはドッグセラピーの活動を取り入れることは有効ということが分かりました。

大集団への適用

これまで、Pさんとセラピー犬の個別の関りや、小集団での園芸や散歩の活動を行って効果を確認してきました。

次の段階として、大集団での活動に取り組むことにしました。

大集団でのレクリエーション中において、集中している間はPさんのトイレの訴えは聞かれないものの、20分も経過するとトイレ要求が聞かれていました。

トイレに意識が向いている間は、いつものように辛そうな表情を浮かべ、全く進行に耳を傾けることができず、トイレに行かれるまでは苦痛の時間になっていました。

そこで、後方の位置で大集団のレクリエーションに参加するPさんに対して、セラピー犬が寄り添って参加をするようにしました。

その結果、膝の上に乗せたセラピー犬を撫でながら歌ったり、クイズに答えるなど、普段よりもレクリエーションに意欲的に参加することができていました。

さらに、最期までトイレの訴えがなくレクリエーションに参加できることも、1週間に2~3回あるようになりました。

明らかに表情が明るくなり、レクリエーションの時間を心地よい時間として過ごせるように変化していきました。

Pさんへのドッグセラピーの効果

自由時間を中心に、頻繁なトイレ要求が聞かれていたPさんでしたが、セラピー犬の個別の関りによりトイレ要求が減少し、快の刺激の多い時間を過ごせるようになりました。

ドッグセラピー介入前は、活動に参加している間も頻繁にトイレ要求があり、最期までトイレの訴えなく参加することは難しかったPさんですが、セラピー犬との個別の関りにより、最期まで参加することが可能となりました。

大集団での活動においても、セラピー犬が個別に関わることでトイレの訴えは消失し最後まで参加できる機会が増えました。

さらに、セラピー犬の存在により活動への参加意欲も向上し、意義のある時間にすることができました。

Pさんに対しては、セラピー犬を介した活動の提供が非常に有効でした。

さいごに

体験談⑯は、頻回なトイレ要求のあるPさんへのドッグセラピーのお話です。

この症例では、セラピー犬を介した活動を提供することで、Pさんのトイレ要求の減少だけでなく、活動への意欲向上が確認できました。

このような活動をできたのは、病棟スタッフやリハビリスタッフの助けがあったからです。

Pさんとセラピー犬の関りを把握した上で、一緒に活動できるような受け入れ態勢を整えてくれる環境があったからこそ、このような良い結果が得られました。

ドッグセラピーもまた、チーム医療であることを理解できる稀有な環境に恵まれていることに感謝しながら、日々活動しています。

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