10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見た『ドッグセラピー体験談②』は、末期癌患者Bさんのおはなしです。
Bさんとセラピー犬との出会い、そして別れ。
Bさんに残された最期の時間と、どのように向き合ったのか・・・。
mamioが、実際に現場で見て、経験をしてきたことを綴ります。
はじめに
mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。
医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。
ドッグセラピーの活動について調べていると
・犬と触れ合って笑顔が増えた
・無口だった方なのに、話す言葉が増えた
・精神的に安定した
などの、効果について、頻繁に目にします。
ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。
それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。
これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。
もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。
もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。
ドッグセラピー体験談①怒りっぽい認知症女性の話はコチラから。
体験談② 末期癌の女性のはなし
体験談②は、病院に入院している軽度認知症患者で、癌を患っている女性患者Bさんの話です。
mamioの勤務先の病院はターミナルケアのための病院ではなかったので、最初はターミナルの患者さんとの接し方が分からず困惑もありました。
でも、そんなセラピストの無知を、相棒のセラピー犬が助けてくれたように思います。
女性患者Bさんについて
Aさんは80歳代の女性で、軽度の認知症がありました。
短期記憶の問題はあるものの、ヘルパーさんなどの手を借りれば、自宅で生活もできるレベルです。
ですが、Bさんは癌を患っており、体調を崩したため、治療の目的で入院されました。
ひとりで生活できる能力の持ち主でしたが、体調が悪化していたため、入院中は車いすを使用していました。
また、Bさんは長いこと猫を飼育されており、動物がとてもお好きとのことでした。
1度目の入院生活
癌の進行により、体調不良で入院してきたBさんは、少しの間、点滴などの治療に専念していました。
最初は会話をするだけでも辛そうだったので、Bさんの体調がある程度落ち着いてから、セラピー犬と交流するようになりました。
Bさんとセラピー犬の交流
体調が落ち着いてきたBさんは、とても穏やかで、いつもニコニコとセラピー犬を迎え入れてくれました。
mamioの病院には複数のセラピー犬がいましたが、最初に出会ったのはmamioのパートナー犬でした。
mamioのドッグセラピーをしている病院では、対象者が普通に生活をしているところに、セラピー犬が訪問する自由交流のスタイルを基本に行っていました。
Bさんの場合、自分の部屋のベッドの上で過ごすことが多かったので、ベッド上での交流も多くありました。
治療により体力が回復したといっても、まだBさんの体力は十分とは言えなかったので、最初はBさんのベッド上で静かに交流することが多かったです。
Bさんは、セラピー犬を抱きしめたり、顔を近くに近づけたり、オヤツをあげる交流が好きでした。
また、ベッド上での交流ならではの、セラピー犬との添い寝もお好きでした。
Bさんの腕枕で横になって目を閉じるセラピー犬を見つめるBさんは、とても穏やかな表情をしていました。
数か月という入院期間ではありましたが、Bさんとセラピー犬の信頼関係はしっかりと築けていました。
mamioは、常に近くにいましたが、なるべくBさんとセラピー犬だけの時間を堪能できるように、静かに見守っている時間も多かった気がします。
ドッグセラピーをする時間には決まりがありませんでした。
食事、検査、リハビリなどを優先しますが、それ以外は患者さんの意思を尊重して、セラピー犬と一緒にいたい時は、できる限り寄り添い、気分がのらない時には無理にセラピー犬との時間は作りません。
患者さんの気持ち、患者さんのペースを大事にします。
体力が回復し、日常生活が送れるようになった頃、Bさんは元気に退院していかれました。
退院前には、車いすに乗った状態で、膝の上にセラピー犬を抱っこして交流することもできました。
心身の回復を見届けられる、素晴らしい退院でした。
2度目の入院生活
Bさんとセラピー犬の交流
1度目の退院から1年も経たずに、Bさんが再入院しました。
再入院から1週間ほど経過した頃に、Bさんとセラピー犬との交流が再開しました。
ベッドで横になっていたBさんの元を訪れると、セラピー犬のことを覚えていたBさんは再開を喜んで笑顔を見せてくれました。
Bさんとセラピー犬の額をピッタリとくっつけて、優しく話しかけていました。
mamioは、ドッグセラピー活動をするとき、いつもカメラを持ち歩いていました。
写真は、患者さんとセラピー犬との活動記録を残すだけの目的で撮影していたわけではありません。
「写真を撮る」という行為自体が、入院生活を送っている患者さんにとっては非日常のイベントのひとつになり、程よい緊張感をもたらします。
髪型を気にして整えたり、普段とは違う部分に神経を使うことができます。
また、撮影した写真は患者さんや、ご家族にプレゼントしていました。
患者本人は、自分の写真を見ることに喜ぶ方もいれば、「これが自分?」と驚く方もいらっしゃいました。
ご家族には、普段見ることのできない入院生活を写真で確認してもらえるので、少しでも安心してもらえたら良いと思い、お渡ししていました。
Bさんは、あまり写真が好きではありませんでした。
もちろん、無理にカメラを向けることはしていませんでした。
ですが、ある日、写真嫌いのBさんが「セラピー犬と一緒の写真を撮って」と頼んできました。
しばらく会えていない息子に、写真を見てもらいたいのだと話していました。
セラピー犬と並んで座ったBさんは、カメラに最高の笑顔を向けてくれました。
身体の限界とセラピー犬への思い
認知症の症状の進行は、あまり感じられなかったBさんでしたが、癌の進行は深刻でした。
日に日に体力は落ちて、車いすに乗ることはなくなり、常にベッドで過ごすようになりました。
仲間のセラピー犬がBさんの元を訪れた時、いつもなら笑顔で迎えてくれるのに、「身体が辛いから」と、交流できなかったことがありました。
身体の痛み、怠さが辛く、こういう時に、ドッグセラピーの限界を感じざるを得ません。
そのような、体力的精神的に辛い状況の中、Bさんはmamioのセラピー犬との面会を希望してくれました。
少しの間、負担をかけたくない思いから、Bさんのベッドへの訪問を控えていました。
そうしたら、Bさんの方からセラピー犬に会いたいと言ってくれたのです。
Bさんの様子を見ながら、体調の良さそうなタイミングで訪問すると、Bさんはベッド上で起き上がり、セラピー犬を歓迎してくれました。
セラピー犬に会える前は、「寂しい」「他の患者さんのところに行かないといけないから忙しいのかな」とネガティブな発言もあったそうなのですが、セラピー犬に会ってからは、そのような素振りは全くありませんでした。
セラピー犬の添い寝を希望し、犬が寝始めると、そのままセラピストとの会話を楽しんでいました。
ただ、傍にいてほしい。
何をするわけでもない。
セラピー犬の存在が、安心に繋がっています。
ドッグセラピストの私には、とてもできない役割を、セラピー犬が果たしてくれます。
その後も、Bさんはセラピー犬との添い寝の時間を希望されました。
セラピストとの会話の中では、癌の症状に関する不安を口にすることが多かったのですが、話すことで心を落ち着かせていました。
Bさんとの別れ
2度目の入院から数か月で、Bさんは起き上がることができなくなりました。
癌の進行は、Bさんの体力を奪っていきました。
亡くなる数日前まで、セラピー犬はBさんに寄り添っていました。
非薬物療法であるドッグセラピーは、癌の治療には直接的には影響を与えることができません。
ですが、「セラピー犬の近くにいたい」という、Bさんの思いに寄り添うことはできます。
ドッグセラピーは、身体は治せませんが、心に寄り添い、生きようと戦っているBさんを支えることができます。
さいごに
ドッグセラピー体験談②として、末期癌の女性へのドッグセラピーを紹介しました。
病院でのドッグセラピーは、嬉しい退院ばかりというわけにいきません。
寂しく悲しい別れも、何度も経験しなくてはなりません。
ドッグセラピーは、医療を助ける補助療法ですが、癌などの病気を治すことはできません。
治療はできないですが、心を支えることならできます。
ドッグセラピーの役割を理解して、病状を考慮しながら患者の希望に添えるように活動することが大事だと、Bさんから学びました。
mamioは、悲しい別れに慣れたくはありません。
他にもセラピー犬を待っていてくれる患者はいます。
それでも、この感覚を麻痺させたくありません。
そういうドッグセラピストでありたいと思います。