ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑨

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談⑨は、帰宅要求の強いⅠさんの心の支えになるドッグセラピーのお話です。

認知症患者さんの入院は、数か月単位と長期間になる場合が多くあります。

自由の少ない入院生活にストレスを感じ、「早く家に帰りたい」」と要求するIさんに対して、少しでも入院生活が快適な時間となるように寄り添って過ごしたセラピー犬との時間を紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談⑨ 帰宅要求の強いⅠさんの心の支えになるドッグセラピーの話

体験談⑨は、帰宅要求の強いⅠさんの心の支えになるドッグセラピーのお話です。

突然大きな声で歌いだしてみたり、集団リハビリへの参加を拒否したり、他患者に聞こえるように文句を言ってみたり、周囲に与える影響の大きいIさん。

これらは認知症の症状から来ている言動なのですが、周囲にいる方と口論になったり、トラブルに発展しやすい状態が続いていました。

Ⅰさんのこと

Ⅰさんは70歳代の男性で、アルツハイマー型認知症を患っており、自宅で過ごすことが難しく入院することになりました。

元々、Ⅰさんは同じ敷地内にある通所サービスを利用されていたため、セラピー犬たちとは入院前から交流がありました。

通所サービスを利用している時から、その言動の大きさから他の利用者の方とトラブルにならないように、職員が注意深く見守っていました。

ハッキリとした物言いや非常に大きな声での歌唱など配慮すべき点がある一方、好きなものや関心のあるものに示す好意は大切にくみ取っていました。

通所サービスでのセラピー犬との交流

通所サービスにセラピー犬が訪れるのは、週に1回程度でした。

その限られた時間を楽しみに待ってくださっていたⅠさんは、通所サービスの部屋にセラピー犬が入るや否や、お気に入りのセラピー犬の名前を部屋の外にまで響く声で呼びます。

まず最初にⅠさんと交流しないと、Ⅰさんの大声は止まず、機嫌を損ねてしまいます。

そこで、まずはお気に入りのセラピー犬がⅠさんの元へ向かうことが暗黙の了解となっていました。

周囲の利用者の方も、「いつものこと」と捉え、「Ⅰさんが呼んでるよ」と優先してくださる配慮がみられていました。

Ⅰさんはセラピー犬と写真撮影することが好きで、必ず毎回写真を撮って、その日のうちにプレゼントするようにしていました。

セラピー犬が来ることで快の感情が生まれ、Ⅰさんの精神安定の効果が非常に強くありました。

セラピー犬が訪問しない日でも、セラピー犬による効果を得ようとする試みがありました。

それは、お気に入りのセラピー犬をモチーフにした作品の製作でした。

1週間ほどの時間をかけて完成した作品は、Ⅰさんの席から見える場所に飾られ、多くの人から賞賛の声を受けていました。

モデルとなったセラピー犬が訪れたタイミングでは、作品とセラピー犬が並んで写真を撮り、Ⅰさんにプレゼントしてフィードバックをしました。

入院生活でのセラピー犬との交流

通所サービスを利用していたⅠさんですが、入院すると知っている職員がいない上に、何日も自宅に帰れない状況となり、大きなストレスを感じるようになりました。

複数人の患者と相部屋となる大部屋に入院していましたが、昼夜問わず、大声で歌唱をしたり、リハビリや検査の時間に場所移動を渋ったりする様子が散見されていました。

通所サービスの時から歩行訓練などのリハビリは行っていたのですが、入院後から拒否するようになったことから、入院によるストレスが原因で拒否していることが考えられました。

実際、「早く家に帰りたい」という発言は多く聞かれていました。

そこで、Ⅰさんの精神的な支柱となるべく、リハビリや検査にセラピー犬が同伴することを検討しました。

検査の場合は、検査室の前まで一緒に移動することで、拒否なく応じてもらうことができました。

また、リハビリの場合も、リハビリ室まで一緒に移動することで、スムーズな参加を促すことができました。

さらに、ベッド上でのマッサージの際には、腕の中にセラピー犬を抱きながらPT(理学療法士)によるマッサージを実施することで、Ⅰさんにとって心地よい時間となり「またやりたい」という発言を聞くことができました。

さらに、集団リハビリにおいても、Ⅰさんのお気に入りのセラピー犬が参加する日のみ、Ⅰさんが自発的に参加する様子がみられました。

せっかく参加していただけるということで、セラピー犬を見やすい場所に座席を用意し、集団の中でもⅠさんの活躍の場があるようなプログラムを設定しました。

芸披露などをして頑張ったセラピー犬にご褒美のオヤツをあげる役割を担当していただき、集団の代表者としてセラピー犬の世話をしていただきました。

入院生活の中では誰かに世話をしてもらう立場になることが多いため、他の誰かの世話をするという役割は非常に重要な意味をもちます。

また、入院前から好んでいたセラピー犬との写真撮影の時間も設けることで、満足感の向上に努めました。

Ⅰさんは、よく通る声と明るい性格のため、Ⅰさんが楽しく取り組めていると、集団の場をより明るく楽しい場にする力があります。

それから、集団リハビリの場で大きな歌唱をすることで欲求を満たし、夜間の大声での歌唱が減少する効果がありました。

Ⅰさんの大声がなくなったことで、Ⅰさん自身の生活のリズムを整えることもできますし、同室の他患者の睡眠時間の確保もできるようになりました。

そして、自宅に帰れないストレスはあるものの、入院後にセラピー犬との交流時間が増えたことへの満足感はあり、強い帰宅要求はきかれなくなりました。

さいごに

体験談⑨は、帰宅要求の強いⅠさんの心の支えになるドッグセラピーのお話です。

セラピー犬との快の時間を増やすことで、入院生活に適応することができるようになりました。

Ⅰさんとセラピー犬の交流の機会を設けるためには、ドッグセラピストだけでなく、病棟の看護師や介護士、理学療法士、作業療法士など、多くの職員の協力が必要でした。

チーム医療の力によって、Ⅰさんの入院生活の力になり、そしてⅠさんだけでなく周囲の患者にも良い効果をもたらすことができました。

セラピー犬が持つ力は大きいかもしれませんが、その力をどのように活かすがとても大事であり、うまく活かすのがドッグセラピストの役目だということを実感した事例です。

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