ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談④

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談④は、自発性が低下しているDさんとのリハビリのおはなしです。

リハビリテーションのモチベーションを高めるために、セラピー犬との交流が生まれました。

Dさんの心と身体の状態だけでなく「その人らしさ」を大事にするリハビリの中で、セラピー犬は、どのように活躍したのかを紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談④ Dさんの自発性を高めるドッグセラピーの話

体験談④は、心と身体、そして「その人らしさ」を重視したリハビリテーションをするために、リハビリスタッフとセラピー犬がペアを組んで活動したお話です。

Dさんのこと

Dさんは80歳代の男性で、軽度~中程度の認知症症状がみられていました。

入院から1か月程の時間が経っていたDさんは、薬物療法と認知症ケアの効果で大きな問題行動はないとされていました。

大きな問題というのは、集団行動をする上でトラブルとなりうる行動を指されることが多くあります。

例えば、他人に攻撃的な行動をしたり、目についたものを収集してしまい込んでしまったり、排泄物を弄ってしまうなどの行動のことです。

これらの行動は、明らかに周囲の人とのトラブルを引き起こしてしまう行動となるため、問題行動としてクローズアップされやすい項目です。

逆に、これらの行動がない患者さんに対しては、「問題なし」と判断されてしまうこともあります。

ですが、ひとりひとりにじっくり寄り添うケアをしていると、注意してケアしたい項目は多くあるものです

Dさんの場合は、自発的な行動や発言がほとんど見られず、色々なことに無関心になっていました。

Dさんのリハビリテーション

Dさんは定期的に個別のリハビリテーションを実施していました。

普段は車いすに乗車していましたが、リハビリの時間は歩行訓練をしたり、計算などの認知機能の訓練にも取り組んでいました。

mamioの勤務先では「その人らしさ」を大事にして集団や個別のリハビリを行っています。

その中で、Dさんの生活背景や趣味などに着目したリハビリを提供することになりました。

対象とする方の人間性を知ることはとても大切です。

特に意欲低下、無関心が著しい患者さまには、そのような情報にも着目した活動を提供することで、「その人らしさ」を取り戻し、QOLの向上に繋げたいものです。

言語聴覚士とのリハビリ

Dさんと一緒にリハビリに取り組むきっかけとなったのは、専任の言語聴覚士からの依頼でした。

言語聴覚士とは、ST(Speech-Language-Hearing Therapist)とも呼ばれており、言語、聴覚、発生、認知、摂食、嚥下といった機能に対するリハビリを行う専門職です。

Dさんは、ある程度の機能が保持されていましたが、言葉を発することが少なくコミュニケーションに問題がありました。

また、リハビリ以外のことにも意欲や関心が低く、ぼんやりすることが多くなっていました。

一見すると大きな問題はないようでしたが、本来のDさんは非常に明るく社交的で、様々なことに感心を示す性格であったとの家族からの情報がありました。

Dさんの趣味に着目したところ、写真撮影が好きで、週末の度にカメラを抱えて撮影を楽しんでいたとのことでした。

自宅では犬も飼育しており、飼い犬の撮影も楽しまれていたそうです。

そこで、Dさんの生活背景を考慮した結果、被写体としてセラピー犬の導入が検討されました

Dさんとセラピー犬

リハビリテーションを一緒にする前、セラピー犬はDさんと交流の時間をもったことがありましたが、あまりセラピー犬に反応を示しませんでした。

事前の情報で、Dさんが犬を飼育したことがあることは知っていたのですが、特別に犬のことを好きという印象はありませんでした。

さらに、周囲の患者様がセラピー犬を好きな方が多かったこともあり、Dさんとじっくりと交流したことがありませんでした。

Dさんとリハビリ

言語聴覚士によるリハビリでは、言葉を発したり、言葉の理解を深める訓練が主に行われていました。

Dさんは拒否することなく取り組んでいましたが、どこか心あらずのような印象で、表情の変化も乏しく、自発性がありませんでした。

自分から意見を言うことはなく、何かの質問に「うん」「ううん」「大丈夫」という短い返事をするだけです。

その状態であっても、表面上はリハビリとして成り立っているように見えます。

リハビリ担当者によっては、そのままリハビリを終わらせてしまったとしても問題ないのでしょう。

ですが、患者さんとの信頼関係をしっかり築きながら、より良いリハビリを提供するために、他の方法を検討しました。

そのうちの1つとして、写真撮影が好きだったDさんに病院のお庭にある花や建物などの撮影に取り組んでいただきました。

すると、他のリハビリをしていた時と比べると、各段に集中力を見せ始めたDさん。

何度か撮影をしているうちにメキメキと腕をあげている様子がみられました。

そこで、撮影の難易度を上げるために、止まっている物だけでなく動いている物の撮影にも挑戦することになりました。

ここでセラピー犬が登場します。

セラピー犬を撮る

いきなり動き回る犬を撮影するのは難しすぎるので、Dさんに合わせて徐々にレベルをあげていきます。

まずは室内で、じっとしているセラピー犬の撮影に挑戦してもらいました。

セラピー犬を静止させた状態で、カメラ目線で撮影したり、少し視線を外して撮影したり、いくつかパターンを変えて練習してもらいました。

その次の段階では屋外での撮影に挑戦してもらいました。

最初は、屋外で動かず止まっているセラピー犬の写真撮影をします。

病院の庭はリハビリ農園になっており、いくつもの植物があります。

セラピー犬だけを撮影したり、花の前で撮影したり、構図を考えながら撮影することができます。

さらに次の段階で、いよいよ動いているセラピー犬の撮影に挑戦してもらいました。

犬の動く速さを調整して、最初はゆっくり歩いている状態で、そこから普通の速度で歩いている状態にして、最終的には速めに歩いている状態までレベルアップして挑戦しました。

セラピー犬は、患者さんの要望に合わせて動きができるように普段から訓練をしています。

できる限り、患者さんに合わせた動きができるのが理想です。

動きがあるものの撮影は、止まっているものに比べて、各段に集中力を必要とします。

さらに、瞬間的にシャッターを押す必要があるので、巧緻性も必要となります。

時間をかけ、Dさんとセラピー犬の息を合わせ、じっくりと撮影に取り組みました。

Dさんの表情は真剣で、これまでのリハビリではみられなかった集中力が見られ、Dさんが非常に熱心に取り組んでいる様子がわかりました。

Dさんの変化

ここで撮影した写真は、「写真展」という形で病院内に掲示し、多くの人に見てもらいました。

そうすることで、Dさんの写真撮影という行動へのフィードバックを行いました。

Dさんの写真展を見た多くのスタッフが、「素敵な写真ですね!」「あの写真が大好きです」などの声をかけてくれました。

多職種によるチーム医療のひとつの形ですね。

全職員がセラピー犬のことを知っているので、犬の写真についてもたくさん良いフィードバックがありました。

Dさんにとって、セラピー犬は「一緒に作品を作り上げた同士」という関係になりました。

以前まで、あまり関心を示さなかったセラピー犬に対して、手を伸ばすようになりました。

そして、「写真撮ったね」と、柔らかな表情で話しかけてくれました。

セラピー犬にだけ、そっと話しかけてくれたDさん。

その言葉は、誰に促されたわけでもなく、Dさん自らの意思で発した言葉です。

自発性がなく、ほとんど自分の意見を言うことのなかったDさんから、伝えられた言葉なのです。

Dさんの中でセラピー犬の存在が信頼をおけるパートナーとなり、その結果、Dさんの言葉を促すことができました

さいごに

ドッグセラピー体験談④として、自発性が低下しているDさんとのリハビリへのドッグセラピーを紹介しました。

リハビリスタッフと連携して、「その人らしさ」を大切にした活動を提供しました。

その結果、自発性の向上があり、発語を引き出すことができました。

ドッグセラピーの形は様々で、対象者とセラピー犬が、どのように交流するかは自由です。

百人の対象者がいれば、ドッグセラピーの形も百通りあります。

これこそがドッグセラピーの普及の難しさにもなっているでしょう。

ですが、自由に形を変えられるドッグセラピーは、対象者に合わせて、いくらでもカスタマイズできる無限の可能性があるとも考えられるのではないでしょうか

体験談④ではカメラという道具を介してドッグセラピーを行いました。

何を用いるかも、ドッグセラピーを支えるスタッフ次第です。

対象者に一番良い影響を与えられるように工夫できるように、知恵を絞っていきたいです。

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