ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑤

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談⑤は、怒りっぽく集団活動に参加するのが難しい男性Eさんのおはなしです。

長い入院生活を送っていると、誰でもストレスがたまります。

そこに認知症の症状が重なり、周囲の人間に対して攻撃的な行動をとる様子が見られていたEさんに、セラピー犬のプログラムを提供しました。

セラピー犬を活かした集団プログラムとは?

どのような活動をして、Eさんの行動にどんな変化がみられたのかを紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談⑤ 怒りっぽい男性Eさんのドッグセラピーの話

体験談⑤は、怒りっぽく集団活動に参加するのが難しい男性Eさんのお話です。
物事へのこだわりが強い部分があり、周囲の状況に気分を害すことが多く、不機嫌なことが多く見られていたEさん。

苛立ちを抑えきれなくなると、近くにいる人を殴るような動作をすることもありました。

Eさんの心と身体の変化を受け入れながら、セラピー犬との心地よい時間を提供しながら活動したお話です。

Eさんのこと

Eさんは80歳代の男性で、中程度の認知症症状がみられていました。

ご家族からの情報で、元々頑固な性格だというEさんでしたが、場所や姿勢などへのこだわりも強く、他の患者さんが通るために場所移動をお願いすると怒りだしてしまうこともありました。

あまり周囲の患者さんと会話をしている様子はなく、いつも固い表情を浮かべている印象でした。

身体の機能低下が著しいEさんでしたが、物事の理解力は保たれていました。

そのために、現状を受け入れるのが難しかったのかもしれないです。

そんなEさんですが、セラピー犬に対しては、とても優しく接してくれていました。

元々犬が好きなこともあり、初めて交流したときからセラピー犬を歓迎してくださり、お気に入りの犬ができると、いつもの固い表情は消え去り、明るい笑顔が見られていました。

Eさんの集団活動

Eさんは病棟で行われている集団リハビリに参加をしていました。

20~30名ほどの患者さんが集まり、身体を動かしたり、歌を歌ったり、頭の体操のためにクイズをしたり、昭和時代を想起しながら過ごしたりして、明るく楽しい雰囲気のリハビリが行われていました。

Eさんの様子

集団リハビリに参加しているEさんは、最初のうちは前向きで積極的に取り組む様子もみられていましたが、日に日に消極的になっていってしまいました。

また、集団活動なので、すぐ近くに他の患者さんがいるため、殴ろうとしてトラブルになることも多々ありました。

参加していたとしても、静かに目を閉じ、あまり感心を抱いていない様子がありました。

集団リハビリがないときは、部屋のベッドで過ごす時間が多く、活動性の低下が目立っていました。

セラピー犬が参加する集団活動

集団リハビリの時間は、Eさんにとって唯一ともいえる活動の時間です。

その時間に心地よさを感じてもらえないことはスタッフとしても辛い状況でした。

どうにかEさんにとっても楽しめる集団活動の時間にしたいと思い、作業療法士と協力してセラピー犬が参加する集団リハビリプログラムを検討することにしました。

Eさんがセラピーと過ごしているときの穏やかな様子を見ていた作業療法士が提案をもちかけてくれたのです。

日常的にセラピー犬の活動を近くで見てきたスタッフならではの発想です。

音楽でも運動でもクイズでもなく、ドッグセラピーという選択肢を提供できることは、ドッグセラピストとしても、大変光栄なことでした。

そして、セラピー犬を大切に思っていてくれるEさんの役に立てることが、とても喜ばしいことでした。

セラピー犬プログラム

集団の前でのセラピー犬のプログラムの検討は簡単ではありませんでした。

スペースに限りがあるため、患者さんが3列に並んで参加していました。

そこで、後方の席の方にも見えるよう、高さのある台の上でのプログラムにする必要がありました。

また、セラピー犬の体力の考慮も必要です。

こうして、リハビリとしての機能を維持しつつ、セラピー犬に無理のないプログラムを検討しました。

考案されたプログラムの中から、今回は次の3種類のプログラムを紹介します。

①自己紹介と一芸披露

②衣装披露

③食嗜好クイズ

①自己紹介と一芸披露

認知症の患者さんが多いため、毎回、簡単にセラピー犬の紹介をした方が良いと考えました。

あまり複雑にしすぎると伝わりにくくなってしまうので、説明は簡潔にしました。

そして、印象を強くするために動きのある一芸を披露することで、言語の理解力が低下している方でも楽しめるように設定しました。

音楽に合わせて楽器を演奏したり、踊りを披露することで、音楽療法としての効果も取り入れることができます。

②衣装披露

特定のテーマを設定し、それに関連したセラピー犬の衣装を2着準備します。

衣装の細部を紹介したり、実際に衣装を手に取って確認していただいたりした後で、どちらの衣装が似合うかを選択していただきました。

多数決で多い方、もしくは、その日のプログラムで重視したい方の意見に合わせて衣装を決定します。

その後、セラピー犬が着用して披露します。

音楽に合わせて衣装披露に各患者さんの近くをまわり、希望に応じて記念撮影をします。

③食嗜好クイズ

犬が食べても害のない食材を用意し、実際に犬がその食べ物を食べるか食べないかを当てるクイズです。

セラピー犬に食べ物を見せた時の様子を見てもらうことでヒントを提供することができます。

そして、答え合わせとして実際に食べ物を与えることで、その場でフィードバックまですることができます。

全ての食べ物を食べてしまってはクイズとして面白くないので、時には食べない食べ物も問い入れてクイズを構成します。

Eさんとセラピー犬プログラム

元々、セラピー犬のことを好きで友好的な態度を示していたEさんは、セラピー犬の集団プログラムに対しても良好な反応を示してくれました。

鑑賞しやすい前方の席を用意し、目の前で動くセラピー犬の様子を食い入るように見つめて参加してもらうことができました。

セラピー犬を応援したり、賞賛したり、積極的な発言が多く聞かれました。

何度も犬の名前を呼び、明るい笑顔が印象的でした。

セラピー犬のプログラムで精神的な安定を得られたEさんは、セラピー犬が退場した後のプログラムの時間も積極性を保ったまま参加することができていました。

Eさんにとってセラピー犬との時間は、非日常の中にある快の刺激に溢れた時間なのかもしれません。

常に快の刺激を提供し続けることができないことは残念ではありますが、限られた時間の中でEさんにとって有意義な時間を提供できることは非常に意義深いことです。

病気により身体の不自由さを感じ、苛立ちを抑えられない状態のEさんに穏やかな時間を過ごしてもらうことは、EさんのQOL向上に繋がります。

プログラムを構成する上で気をつけること

セラピー犬の動きを引き出したり、本番で指示通り動けるようにトレーニングすることは、私たちドッグセラピストの仕事です。

そこに、他職種の知恵と経験が加わることで、ドッグセラピーの可能性は無限大に広がることを実感しました。

どんなに素晴らしいプログラムを準備できたとしても、その内容が参加する対象者のレベルに合っていなければ意味がありません。

参加者の状態を把握した上で、良い反応が得られる内容に設定することが大切です。

また、実際にプログラムを披露する時にも、場の雰囲気を保ったり、集中を保つような声がけは欠かせません。

参加者のレベルに合わせて進行やサポートをする技術の取得は必要不可欠です。

もうひとつ大切なことは、プログラムの構成です。

集団プログラムは時間が長いため、プログラムの内容が単調になってしまうと、認知症の患者さんの集中が持続しないという問題があります

そこで、動的な内容と静的な内容を組み合わせつつ、セラピー犬の良さを引き出すプログラムを取り入れて構成しました。

また、参加するセラピー犬の得意とする分野を活かすことで、犬への負担を抑えつつ、参加する患者さんに楽しんでもらえるプログラムを実現できました。

さいごに

ドッグセラピー体験談⑤として、怒りっぽく集団活動に参加するのが難しい男性Eさんへの集団プログラムを紹介しました。

作業療法士と協力して、セラピー犬の個性に合わせたプログラムを実現しました。

その結果、普段は楽しんで参加できない集団プログラムを、積極的に参加できるプログラムに変えることができました。

Eさんが元々セラピー犬のことを好きだったことはもちろんですが、集団という場でも物足りなさを感じないようなプログラムの構成にできたことが大きかったです。

さらに、Eさんにどのようにお声がけすると良いのかを分かった上で、プログラムを提供できたことで、より良い結果を得ることができました。

まみお
まみお

ドッグセラピーは、個別であっても集団であっても、対象者のことを理解してから行うことが非常に大切だということを改めて実感しました。

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