ドッグセラピストによる、ドッグセラピー現場で実際にあった体験談⑥

ドッグセラピー

10年以上にわたりドッグセラピストとして活動しているmamioが見たドッグセラピー体験談は、コロナ渦における余命数か月のFさんへのドッグセラピーのおはなしです。

末期癌で余命を宣告されているFさんは、自分に残された時間と向き合い、前向きに生きていました。

犬が大好きなFさんに寄り添いますが、コロナ渦によりスムーズな活動が制限されてしまいます。

そんな中、Fさんの最期の願いを叶えようとした取り組みを紹介します。

はじめに

mamioは、病院、介護老人保健施設、障がい者支援施設などの複数の施設で、数千回のドッグセラピー活動経験を積んできました。

医師、看護師、作業療法士などと協力しながら行ってきたドッグセラピーの活動で、とても貴重な経験をさせてもらっていると思います。

ドッグセラピーの活動について調べていると

・犬と触れ合って笑顔が増えた

・無口だった方なのに、話す言葉が増えた

・精神的に安定した

などの、効果について、頻繁に目にします。

ドッグセラピーに興味のある人なら「なんとなくドッグセラピーはいいものなんだろうな~」「犬がいると癒されるよね」と感じてくれると思います。

それは、とても嬉しいことなのですが、個人的には、ちょっと物足りなく感じることが多いです。

これだけではよく分からないな~、もっと詳しく知りたいな~、と感じることが多いです。

もしかしたら、私と同じように感じている人もいるのでは?と思い、まずは自分の体験について書いてみようと思いました。

もっと多くの人に、ドッグセラピーの現場を知って、興味をもってもらいたいです。

体験談⑥ コロナ渦での余命数か月のFさんへのドッグセラピーの話

体験談⑥は、コロナ渦でドッグセラピーに制限がかかる中行われた、余命数か月のFさんのお話です。

Fさんは元から犬が大好きで、非常に穏やかな性格の方です。

ですが、末期癌で余命5か月を宣告されており、間もなく、その5か月を迎えるというタイミングでの入院となっていました。

癌の治療の辛さや残される家族の心配を抱えながら、セラピー犬と残された時間を過ごすFさんの最期の時間を紹介します。

Fさんのこと

Fさんは70歳代で、軽度の認知症症状はありましたが、日常生活は送れていました。

癌の傷みを緩和させるための治療の影響でせん妄症状がみられたため、入院することになったFさん。

入院から2週間ほどは、薬の影響でせん妄状態が続いていましたが、徐々に落ち着いてきました。

Fさんは自宅で犬を飼育しており、犬が大好きなこともあり、セラピー犬にもとても好意的で、犬の訪問を非常に楽しみにしていました。

セラピー犬がいないところでも、看護師さんに「早く会いたいな」と話をしていたそうです。

Fさんの入院生活

Fさんの入院生活は心身の苦痛をともなうものでした。

末期癌による倦怠感や痛みもありますし、腹水による身体の辛さがありました。

精神的な辛さも非常に感じられていました。

そもそも、Fさんの入院した病棟は、末期癌患者のための病棟ではありませんでした。

病棟のスタッフは、もちろん末期癌のFさんを気遣う対応はしているものの、癌患者のための施設ではないので、十分な対応は難しい状況でした。

Fさんの周りには認知症患者ばかりなので、話し相手もおらず孤独を感じていました。

また、余命わずかであることを知っているために、死への恐怖とともに、残された家族のことも心配で精神的な辛さを感じていました。

Fさんとドッグセラピー

Fさんはセラピー犬と初めて交流した時から、とても可愛がってくれました。

自宅で犬を飼育していることもあり、犬の扱いに慣れていましたし、非常に犬が好きなので、自ら犬に声をかけてくれていました。

お気に入りのセラピー犬との時間

複数頭いるセラピー犬たちを可愛がってくれていましたが、特に気に入って可愛がってくれたのが、自宅の飼育犬に似ている犬でした。

見た目は全く違う犬なのですが性格が似ていたそうです。

まみお
まみお

人と犬にも相性があるので、複数頭のセラピー犬がいる体制を整えていると、このようなメリットがありますね。

お気に入りにのセラピー犬の触れ合っていると、飼育犬が近くにいるように感じられて心が落ち着くのだと教えてくれました。

膝の上に招き、優しくゆっくり体を撫でながら話かけ、穏やかな時間を過ごすことが多かったです。

膝の上でのんびり目を閉じることが好きなセラピー犬で、その幸せそうな表情を見ていると、自分まで幸せな気分になると話してくれたことがありました。

気候の良いときは施設内の庭に出て、外の空気を感じながらセラピー犬と散歩をして気分転換をしていました。

「気持ちの良い風が吹いてるね」

「もう、この花が咲く季節なのね」

など、目に映る景色を、その都度セラピー犬に語りかけていました。

セラピー犬との時間が、唯一の心のよりどころになっているようでした。

もう死に向かっていくことばかり考えていたFさんですが、セラピー犬や病棟の職員と接するうちに前向きな考えがうまれました

色々なことを諦めるのではなく、これまでに試したことのない薬を試してみようと心に決めたのでした。

コロナによる影響

セラピー犬とFさんとの信頼関係が構築できた頃、新型コロナウィルスが猛威を振るっていました。

まだ、犬に対してどのような影響を及ぼすのか、犬から人への感染があるのかなど、情報が少なかったため、やむを得ずドッグセラピーの活動を中止することになりました。

まずは感染しないこと、健康第一の考えのための判断でしたが、自らの心の安定をセラピー犬に委ねていたFさんには、とても申し訳ないことでした。

セラピー犬が直接会いにいかれない間、犬のために編み物でプレゼントを作ったり、ビデオ通話で犬の様子を披露する取り組みを行っていました。

それ以外の時間は、セラピー犬の話をしながら、ドッグセラピストが創作や音楽などのアクティビティを提供して過ごしていました。

Fさんの願い

Fさんとセラピー犬が直接会えない時間は長く、あっという間に半年もの時間が経過しました。

入院当初から余命わずかと言われていたFさんは、闘病の努力はしていましたが、徐々に病状が悪化していきました。

明らかに身体が辛そうなFさんでしたが、無理のない範囲で残された時間を楽しもうと前向きに過ごしていました。

そんな中、Fさんの発した言葉は、

「もう一度、セラピー犬に直接会いたいよ」 でした。

何か月も会えていないセラピー犬を想い、生きているうちに会いたいと切実に訴えてこられたのです。

水面下ではドッグセラピーの再開に向けて動いていたmamioでしたが、これはドッグセラピストとしての使命だと感じました。

何としてもFさんの願いを叶えたい!

そのために、ドッグセラピーの再開に向けての動きを加速させることを決意しました。

最期のドッグセラピー

コロナの影響で中止になっていたドッグセラピーですが、Fさんの「セラピー犬に会いたい」という願いを叶えるべく、他職種の協力を得ながら、どうにかドッグセラピー再開にこぎつけることができたのです。

どうしたら感染対策をしながらドッグセラピーができるのか?

感染対策しながら、患者さんに楽しんでもらうためには何をしたらいいのか?

そんなことを検討しながら、セラピーに触れることはできないけれど、すぐ近くで会える集団リハビリのプログラムが生まれました。

感染対策をした集団リハビリについては、コチラを参考にしてください。

Fさんには最前列の真ん中の、セラピー犬のすぐ近くの場所で見ていただきました。

瞳から溢れる涙を、何度も何度もハンカチで拭いながら、セラピー犬の元気な姿を喜んでくれました。

Fさんの「セラピー犬に会いたい」という願いを、ついに叶えることができた瞬間でした

その翌日は勤務が休みで、翌々日に出勤していきました。

出勤したら、まずカルテをチェックするのが日課です。

そこで知ることになった事実は、Fさんとの別れでした。

このたった1日の間に、Fさんは亡くなられていたのでした。

あの日のドッグセラピーが、Fさんの最後のドッグセラピーになったのでした。

まさか、という思いで衝撃を受けましたが、Fさんの最後の願いを叶えることができたことが、何よりの救いでした。

さいごに

ドッグセラピー体験談⑥として、コロナ渦でドッグセラピーに制限がかかる中行われた、余命数か月のFさんのお話を紹介しました。

ドッグセラピーは、救命率向上に直結するものではなく、非薬物療法として様々な効果がありますが、多くの病気を治す力はもっていません。

それでも、闘病生活による精神的な辛さを抱えたFさんに寄り添うことで、残された時間に色を添えることができたのではないでしょうか。

セラピー犬の存在が、生きる気力と勇気を失いかけていたFさんの心の拠り所になり、弱さを吐き出せる対象になれていたのではないでしょうか。

Fさんの人生で最後に望んだ願いを叶え、送り出すことができました。

ドッグセラピーでは命を救うことはできませんが、人の心を救う力があることを実感させてくれる事例です。

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