日本全国で、セラピー犬が施設や病院を訪問しドッグセラピーの活動を行っています。
ここまで普及したのは、現場で奮闘してるセラピー犬とセラピスト、セラピー団体を支えるスタッフの力の賜物です。
ですが、海外のドッグセラピーと違い、さらなる普及が進まないのはどうしてでしょうか?
この記事では、海外のドッグセラピーを紹介すると共に、日本のドッグセラピーが普及しない理由を紹介します。
海外と日本のドッグセラピーの歴史
海外でアニマルセラピーが始まったのは紀元前400年で、負傷兵のリハビリのために馬によるセラピーが行われました。
それ以外でも1700年代には精神障がい者施設でウサギなどの動物によるセラピーが行われ、1800年代には犬によるセラピーの記録が残っています。
一方、日本国内でアニマルセラピーが始まったのは1920年代の森田療法です。
森田療法は人の不安や葛藤を受け入れる手法で、動植物の世話をすることで治療を進め、現在も森田療法は行われています。
その後、1970年代には乗馬セラピーが始まり、1980年代にはドッグセラピーが始まりました。
世界と比べると、日本のセラピーの歴史は非常に浅いのがよくわかります。
海外のドッグセラピーはこんなにスゴイ
アメリカやイギリスなど諸外国では、ドッグセラピーが公的に治療として認められています。
つまり、病院で医師が診察をして、薬を処方するのと同じように動物との暮らしを処方できるのです。
もちろん日本では、動物に関する治療は公的に認められていません。
つまり、どんなに治療に貢献したとしても、病院に入る利益はゼロです。
また、2010年に7月にストックホルムで開催された「人と動物に関する国際組織」の第12回国際大会で、動物介在療法(アニマルセラピー)について注目すべき発表がありました。
一般の診療に動物を介在させる、いわゆる動物介在療法を、229の病院のうち38の病院で行っている、という発表でした。
数年後には、ドイツのほとんどの病院で動物介在療法が実施されたそうです。
日本のドッグセラピーの現状
日本でも少しずつドッグセラピーは認知度があがり、浸透してきています。
ボランティアによる、ふれあいを中心とした動物介在活動は数多く取り組まれていますし、医師や看護師などの医療従事者による治療目的の動物介在療法も全国で取り組まれています。
少しずつ取り組みの幅を広げている日本のドッグセラピーですが、まだまだ発展途上です。
海外のように、積極的に治療としてドッグセラピーを取り入れる病院は、ほとんどありません。
どうして日本では海外のようにドッグセラピーが普及していかないのでしょうか。
ドッグセラピーを導入するデメリットが数多くあります。
ドッグセラピーはお金にならない
ドッグセラピーを行っても収入が得られないので、積極的に導入しようとする病院は多くありません。
現在、日本でドッグセラピーを導入している病院や施設は、ドッグセラピーにかかる費用を、自分たちで負担しています。
経営者からみれば、ドッグセラピーの対象者にドッグセラピー費用を請求できない無料サービスなのに、人件費などの費用が発生する赤字の事業なのです。
医療、福祉業界は経済的に苦しい施設が多く、ドッグセラピーの費用を負担してまで取り入れようとする施設は少ない現状があります。
病院にかかったときに支払う費用を「診療報酬」と呼び、厚生労働省が全ての医療行為にかかる費用(点数)を定めています。
診療報酬の項目は、診察、検査、処置など、とても細かく決められていますが、その中にドッグセラピーは含まれていません。
ドッグセラピーの効果が証明できない
ドッグセラピーをすることで、対象者が精神的に安定したり、リハビリなどの身体的な効果があることは複数報告されていますが、その効果の証明が十分にできていません。
ドッグセラピーを始めとした非薬物療法の難しい部分として、全ての人に効果が得られない点が挙げられます。
そのことを考慮しつつ、数値化したデータを元にドッグセラピーの効果を実証できないと、医療の現場で積極的に取り入れられません。
積極的にドッグセラピーを取り入れようとする団体が少ないので効果の証明も難しく、ドッグセラピーを有償化できずお金の問題をクリアできない、という負のループになっています。
衛生面の問題
動物を施設の中に入れるとなると、衛生面の問題を解決する必要があります。
医療、介護施設以外でも、日常の買い物や食事など、犬と一緒に行かれる場所は限られています。
一般のペットだけでなく、介助犬なども入れない場所が、まだまだ多くあります。
その理由としては、衛生面の問題が多く挙げられています。
もちろん、ドッグセラピーで訪問する犬たちは衛生面に十分気を付けていて、活動前のシャンプーはもちろん、検便検査による体調チェックなども行っています。
mamioはセラピー犬の衛生管理のために定期的なシャンプー、爪切り、耳掃除、歯磨きのケアに加え、セラピー活動前後の犬の清拭、検便検査を行っています。
「人間より、よっぽどキレイにしている」という意見も多く聞かれますが、それでも、どこまで清潔にすれば十分なのか定まっていないのです。
ドッグセラピーを導入している病院では、保健所に相談して衛生管理の方法を決めていますが、明確な決まりはなく、担当者同士の独断となっています。
仮に、病院で感染症のトラブルが起きたとします。
ドッグセラピーが、その原因になり得る可能性があるかもしれない、というデメリットがあると、前向きにドッグセラピーを導入したがる病院は少ないでしょう。
この問題を解決するためには、ドッグセラピーを提供する側だけでなく、ドッグセラピーを受け入れる施設側の協力体制も重要となってきます。
犬(ペット)に対する考え方
日本とペット先進諸国とでは、そもそも動物に対する考え方が全く違っていて、犬を身近な存在にする妨げになっています。
かつての日本は、「犬は番犬」として扱っていて、夏も冬も、朝も晩も屋外で飼育するのが当たり前でした。
最近になって、犬は愛玩動物という対象になり、犬を可愛がるという意味では大きく変化しましたが、海外と比べると、まだ差があります。
日本人にとっての犬は、愛玩動物であり、可愛がる対象ですが、海外の人にとっては、家族の一員なのです。
人間の子ども同様に、躾をしっかりと行うので、犬の問題行動が少なくなります。
問題行動が少ないので、お店や乗り物など一緒に行かれる場所が多くなります。
また、ドイツをはじめ、イタリア、スイスなどの国では犬税が設けられています。
かつては日本にもありましたが、現在はありません。
この犬税によって、衝動的に犬を飼い始める人が減り、無駄な繁殖を減らす効果にも繋がっています。
海外には、犬に関する様々な法律が存在します。
カナダでは、庭に犬を繋いだ状態でお皿に水が入っていなかったり、買い物の間だけ犬を車に残していると罪になります。
ドイツでは、1日のうちに犬と一緒に過ごさなければいけない最低時間が定められている地域があります。
イタリアでは、1日3回散歩をしないと罰金をとられます。
これらの法律は、家族である犬の尊厳を守るためのもので、犬が家族として守られている証にもみえます。
日本のドッグセラピー普及に向ける取り組み
ドッグセラピーの取り組みが増えるなか、各施設や研究団体がドッグセラピーの効果に関する論文を発表しています。
それぞれの論文におけるデータは少なく、ドッグセラピーの効果を裏付けるには不十分ではありますが、少しずつ蓄積しているのは確かです。
また、聖マリアンナ医科大学病院などの大学病院では、ドッグセラピーに関するデータを集めており、中には、犬の衛生面を証明するデータを公表しているなど、注目されています。
こうしたドッグセラピーのデータが積み重なり、医療報酬として認められるようになると、動物介在療法の普及は一気に加速する可能性があります。
まとめ
海外のドッグセラピーは、日本よりも進んでおり、多くの病院で実施されていたり、犬を飼うことを医師が推奨する国も存在します。
日本では、正式な医療行為としては認められていないため、ドッグセラピーの普及が滞っています。
ですが、各ドッグセラピー団体が、セラピー効果を証明するためのデータを蓄積することで、今よりも普及する可能性は十分にあると考えられます。