ドッグセラピーは様々な方を対象に行われていて、高齢者、発達障害者、闘病中の小児、精神疾患のある方などを対象にしています。
その中でも、認知症の方へのドッグセラピーは数多く行われています。
認知症の方へのドッグセラピーは、どのような効果が得られるのかを、実際にドッグセラピストmamioが現場で見てきた症例と合わせて紹介します。
認知症とは
認知症とは、脳の病気や障害が原因で記憶や判断力などが低下して、日常生活が正常に送れなくなる状態のことです。
認知症は、高齢になるほど発症するリスクが高くなり、2020年の65歳以上の高齢者の認知症患者は約600万人で、16.7%となっており、6人に1人が認知症となっています。
認知症患者はさらに増え、2025年には5人に1人が、2060年には4人に1人が認知症になると予想されています。
認知症の症状
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に分けられます。
認知症の中核症状は、脳の病変により引き起こされるもので、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の障害、実行機能障害、失語・失認識・失行といった症状があります。
認知症の種類や個々の状態によって、どのような症状が現れるかは異なります。
認知症の治療
認知症は、治療によって進行を遅らせることはできても、現在の医学では根治させることはできません。
そこで、薬を用いた薬物療法と、薬を用いない非薬物療法とを併用して、症状の進行を緩和させます。
ドッグセラピーは動物介在療法(もしくは動物介在活動)といわれる非薬物療法のひとつで、周辺症状(BPSD)の改善に効果を発揮しています。
認知症の方へのドッグセラピーの症例
全国の施設や病院でドッグセラピーが取り入れられ、数多くの認知症の方の症状を和らげる効果が報告されています。
ここでは、ドッグセラピストmamioが入院している認知症患者へのドッグセラピーで目撃してきた症例を具体例としてあげ、認知症へのドッグセラピーの効果を紹介したいと思います。
症例① 帰宅要求の強い認知症患者へのドッグセラピー
治療のために入院しているAさんは、自宅に帰りたい気持ちが強く、常に「家に帰りたい」と嘆き、感情的になって治療や食事を拒否していました。
そこで、精神安定の目的でAさんへのドッグセラピーを開始したところ、セラピー犬に対して明るい表情がみられるようになり、入院中でも楽しい時間を過ごすことができるようになりました。
セラピー犬を介して、看護師や介護士との信頼関係も生まれ、セラピー犬がいない時間でも、治療や食事がスムーズにできるようになりました。
治療のために入院しているのに、自分の感情をコントロールできず治療に専念できないのは認知症の症状のひとつです。
ネガティブな感情ばかりが目立っていたAさんですが、セラピー犬の存在により快の感情が生まれ、精神的に安定することができました。
症例② ひきこもりがちな認知症患者へのドッグセラピー
入院後しばらくの間、ベッド上で点滴などの治療を行っていたBさんは、ベッドで寝ていることが習慣化してしまい、部屋にひきこもりがちになってしまっていました。
Bさんは認知症になる前は、愛犬の散歩を好んで行っていたとのことで、ドッグセラピーを開始しました。
部屋の外で待機している犬に会うという口実で部屋の外にBさんを誘い出し、玩具投げなどの遊びや散歩を実施しました。
何度も交流を重ねていると、Bさんは犬を探すために、自ら部屋の外に出てくるようになりました。
最初は部屋の外で犬との交流のみ楽しんでいましたが、徐々に犬以外の活動にも参加できるようになり、ひきこもりの状態をなおすことができました。
同じ行動を繰り返し行うのは、認知症(レビー小体型認知症)の症状のひとつです。
Bさんの好みに合わせた活動を提供することで、Bさんへの負担を最小限にして、活動性を向上することができました。
症例③ リハビリを拒否する認知症患者へのドッグセラピー
イライラして理学療法士(リハビリスタッフ)とのコミュニケーションに問題を抱えるCさんは、スムーズにリハビリができない問題がありました。
元からCさんは犬好きだったので、セラピー犬がリハビリに同行することにりました。
セラピー犬の介入前は「歩かない」と怒っていたCさんでしたが、セラピー犬を散歩に連れていきたいと、自ら歩行訓練の希望がきかれるようになりました。
歩行訓練以外の時間も、セラピー犬がいることで楽しくイライラせずに取り組むことができるようになりました。
リハビリは痛みが伴う辛い時間でもありますが、そこに犬という楽しみを作ることで、意欲的にリハビリに取り組むことができるようになりました。
認知症の方へのドッグセラピーの効果
認知症の方へのドッグセラピーの症例でも紹介したように、ドッグセラピーによる効果は様々あげられます。
・精神的な安定
・リハビリや治療の促進
・暴言、暴力の軽減
・意欲低下の改善
・活動性の向上
・協調性の向上
・発語の向上
・脳の活性化
・認知機能の改善
これらのドッグセラピー効果が、認知症の周辺症状(BPSD)改善に繋がっています。
認知症の方とセラピー犬との交流は、ドッグセラピーの一般的な効果である「精神的な安定」、「身体的なリハビリ効果」、「協調性の改善」効果があります。
さらに、犬との交流は言語的な交流だけではないので、視覚、聴覚、嗅覚、触覚といった感覚を使うことができるので、脳の活性化や認知機能の改善効果がみられます。
認知症の方へのドッグセラピーを行うために大切なこと
ドッグセラピーを治療として行うために必要なことは、『相手をよく知ること』です。
これは、認知症に限らず、全ての対象者に当てはまることです。
認知症の方へのドッグセラピーを行うのであれば、ドッグセラピーを開始する前に確認しておきたいことは、次の通りです。
・認知症の種類
・現在みられる問題行動
・元々の性格
・趣味、嗜好、生活歴
・犬の飼育歴、好き嫌い、アレルギー
まずは相手のことを知ってから、アプローチ方法を検討していくことで、効果的なドッグセラピーを提供することができます。
認知症の方へのドッグセラピーの課題
全ての認知症の方に対して、ドッグセラピーが有効であるとは限りません。
犬にアレルギーのある方にはドッグセラピーを提供するべきではありませんし、犬が嫌いな方や、犬に噛まれたことがあるなどの経験があり、犬を苦手に感じている方には犬の存在がマイナスに働くこともあります。
これは、認知症に限ったことではなく、全ての対象者に共通することです。
ドッグセラピーの提供は、事前に相手のことを調べたうえで、計画的に行う必要があります。
どんな相手にもドッグセラピーが良い効果だけをもたらすわけではない、ということを理解する必要があります。
それから、犬に対して攻撃的になる方には犬を近づけるのは危険です。
暴力行為を受けたセラピー犬は、ヒトに対して恐怖心を抱いてしまう可能性があるので、セラピー犬が暴力を受けることのないように守る必要があります。
まとめ
認知症の方にドッグセラピーを行うことで、認知症の周辺症状(BPSD)の改善につなげることができます。
セラピー犬の存在は、相手への癒し効果だけでなく、意欲の改善や協調性の向上などの効果をもたらすこともできます。
そのためには、対象者の方の情報を事前に把握し、効果的なドッグセラピーを提供する必要があります。